第2話 どこに行くの?

「う〜ん、そんな町、聞いたことないわね」


 シエラちゃんのお母さんは困った顔だ。


「そうですか……」


 ここ、どこなんだろ。


「シャロールはとーっても遠いところから来たの!?」


 まだ私もわかんない……。


 けど、シエラちゃんに期待の眼差しで見つめられると……。


「た、たぶんそうかも」


 つい答えてしまった。


「わー! すご~い!」


 シエラちゃんは私に顔を近づける。


「シエラ、あんまり近づくと迷惑だぞ」


「そんなことないよ!」

「ね、シャロール!」


 私の手を取って、シエラちゃんはにっこり笑った。


「う、うん」


 少なくとも、迷惑だとは思ってないよ。


「行くところがないのなら、ここにしばらくいてもいいのよ」


 え……!

 シエラちゃんのお母さん、優しい!


「あ、あの……ありがとうございます」


「えー!」

「シャロールと一緒に遊べるのー!?」


 シエラちゃんがさっき繋いだ手をぶんぶん振り回す。


「何する、何する!?」

「クロムオレンジ食べる!?」

「ジャウロンのお肉もおいしいよ!」


「やっぱりシエラは食べ物ばっかりだな」


「そんなことないってー!」

「あ、でもジャウロンはサミュエルが……」


 サミュエル?


「そうだ!」

「サミュエルのところに食べに行こうよ!」

「サミュエルの料理、すっごくおいしいんだよ!」


 よだれを出して、熱く語り続けている。

 よっぽどご飯が好きなのかな。


「ねぇ、行こう!」


「う、うん」


 わかんないことだらけだったけど、私はシエラちゃんの勢いに圧されて孤児院を出た。


――――――――――――――――――――


 ユーリ君は用事があるらしいので、私はシエラちゃんと……その……サミュエル?


 とりあえずその人のところにご飯を食べに行くみたい。


「サミュエルはすっごくかっこよくてねー」


 佐藤みたいな……?


「電気の剣をバリバリーって!」

「悪い人をズバーって!」


 すごい……。


「……佐藤よりかっこいい」


 私の口からこんなつぶやきが漏れてしまった。


「サトー? 誰それ?」


 シエラちゃんは首をかしげた。

 そりゃそうだよね、知らないよね。


「佐藤は私の……」


 知り合い? 友達? それとも彼……。


「知り合いなの!」


 私は一瞬迷った末、知り合いにした。


「どんな人!? かっこいいヒーロー!?」


 シエラちゃんの目が、食べ物の話をしているときと同じくらいキラキラ輝いている。


「ぜ〜んぜん違うよ」

「強くもないし、頼りないし……」


 佐藤はそんな人……。

 そのサミュエルって人とは大違い……。


「ふ〜ん」


 でも……でも!


「でもね! 私のことをいつも気にかけてくれるの!」


 そんな佐藤のこと、シエラちゃんはどう思うかな?


「え〜、いいなあ〜」

「サミュエルは強いけど、愛想がなくて冷たいもん」


 シエラちゃんはどこか羨ましそう。


「足したらちょうどいいかもね」


 私がそんな冗談を言ったとき、どこからか鳥さんの鳴き声が聞こえてきた。


「チチチチチチ」


 この山にはこんなきれいな鳴き声の鳥さんが……。


「あ! シジミちゃーん! どこー!?」


 シエラちゃんは突然走ってどこかに行ってしまった。


「え……?」


 シジミちゃんって……?


 シエラちゃんはどこに行ったの……?


 見知らぬ山の中に私は一人取り残されてしまった。


 どうしよう?


「チチチチ」


「あ!」


 また聞こえた。

 私があたりを見渡すと、ちょうど私の真上にある木の枝に白い小鳥さんが止まっていた。


「あなたが鳴いてるの?」


「チチチ」


 何か言ってる気がする。

 でも、なんて言ってるかは……。


 そうだ!

 私のスキルを使えばいいんだ!


 これをこうして……。


「チチチチ!」


 そんな風に私も鳴き声をまねして話しかけると小鳥さんは


「あら、私と話せるのね」


 と言った。


 やっぱりスキルは使えるみたい。

 ただ、いつもみたいに「スキルが使用されました」って出てこない……。


 ま、いっか。


「あなたもサミュエルと同じ能力を持ってるの?」


 小鳥さんは私にそう尋ねた。


 サミュエルと同じ能力?

 なんのことかわからない……。


 っていうか……。


「サミュエルを知ってるのー!?」


「ええ、知ってるわ」

「あなた、サミュエルに会いに来たのね」


「うん」


「私が案内してあげましょうか?」


「え、ホント!?」


 やったー!


 あ、でもシエラちゃん大丈夫かな……。

 道に迷ってたり、私を探したりしてるかも……。


 でもでも、実はサミュエルの家に先にいたりして……?


 とりあえず、サミュエルに会おうかな。


「さあ、行くよ」


「はーい!」


 私は小鳥さんについていく。


「ねぇ、あなたの名前はな~に?」

「私はシャロール!」


「私はシジミ、よろしくね」


「よろしく!」


 シジミって言うんだ……。

 どこかで聞いた気が……。

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