第3話 こわーい人達

「ここがサミュエルの家よ」


 シジミちゃんは山小屋まで来ると、私の肩に止まった。

 こんな人気のないところに住んでるの?

 そのサミュエルって人は?


 とりあえずドアをノックする。

 ……今度は頭をぶつけないように。


「すみませんー」


 けれど、返事がない。

 もう一度やってみよう。


「すみませんー」

「サミュエルさんのお家ですかー?」


 するとドアが開いて中から誰か出てきた。

 この人がサミュエルさん?


「なんだ」


 サミュエルさんは私のことを鋭い目でいかにも迷惑そうな顔で見た。


「えっと……」


 あれ?

 何しに来たんだっけ?


「用がないなら帰ってくれ」


「あ……」


 ドアがゆっくり閉められようとしている。


「シエラちゃん!」


 私がそう叫ぶと、ドアが閉まる寸前で止まった。


「シエラ?」


 ドアの向こうからそんな声が小さく聞こえた。

 この人、シエラちゃんのこと知ってるんだ。


「シエラちゃんがここで……ジャウロン? を食べるって……」


「それで?」


 少し怒ってる?


「でも、シエラちゃん、いなくなって……」


「……」


「知りませんか?」


「……はぁー」


 大きなため息をつかれた。


「俺が知るわけないだろ」


 それだけ言って、その人はドアを完全に閉めてしまった。


 どうしよう……。

 これじゃあ、完全に……。


「あら〜! かわいい猫ちゃん!」


「へ?」


 私が声の聞こえた方を見ても、誰も……。


 ううん、よく見ると森の中から女の人が……。


 私よりも背が高くって……。


「これ、本物なの?」


「にゃあん!」


 いつの間に……後ろに……。


「……これも本物?」


「あはぁ……」


 力が抜けちゃう……。


「やめてください!」


「ごめんなさ〜い」

「ラボのキングとクイーンを思い出して〜」


 言葉とは裏腹に、まだ私の耳を……。


「ん……!」


「それで、あなたはどうしてここに?」


「シエラちゃんが……あ!」

「もう!」


 私はいつまでも耳をいじくるお姉さんから離れ……。


「待った!」


「にゃはあん!」


 しっぽを掴まれて、離れるのを阻止された。


「もう! そこもだめ!」


「か・わ・い・い〜」


 今度は私に頬ずりしてくる……。

 この人、何が目的なの?


「それで、シエラちゃんがどうしたの?」


 お姉さんが少しまじめな顔になった。


「サミュエルに会いに行くって、飛び出して行っちゃったんです」


「それで〜?」


「でも、まだここにはいなくて……」


「そうね、シジミちゃんがここにいるから当然ね!」


 シジミちゃんが?

 何か関係してるの?


「あなたはシエラちゃんが心配なのね」


「……はい」


「よし! 私達が探してあげるわ!」


「ありがとう……ございます」


 あれ?

 今私達って……。


「こらー! サミュエルー!」

「出てきなさーい!」


 お姉さんは山小屋のドアをどんどん叩き始めた。


「なんだ、さっきから騒々しい」


 さっきより、もっと不機嫌な顔のサミュエルさんが出てきた。


「シエラちゃんが行方不明なのよ!」

「あんた、心配じゃないの!?」


「知るか」


「シエラちゃんに何かあったら、あんたを恨むわよ!」


「チチチチチ!」


 シジミちゃんがサミュエルさんのところに飛んでいった。


「ん? なんだ?」


「チチチチチチ」


 シジミちゃんが必死に訴えているけど、伝わってるのかな?


「わかった、わかった」

「お前らがそんなに……なに?」


 サミュエルさんが私を怪訝な顔で見つめた。


「お前、シジミと話せるのか?」


「え……うん……はい」


 緊張して変な返事しちゃった……!


「その耳としっぽも……」


 耳としっぽがどうかしたの?


「おかしなやつだな」


 ムッカー!

 そんなこと言わなくていいじゃん!


「何言ってるの、サミュエル!」

「あれがチャーミングポイントでしょ!」


 そうだよ!

 お姉さんの言うとおり!


「くだらないこと言ってないで、探しに行くぞトワ……それとシャロール」


 あの人、トワって言うんだ。


 あれ?


「どうして私の名前を知ってるの!?」


「シジミが言ってたからだ」


 シジミちゃんが……。


「サミュエルさんも……」


「ピー!」


 サミュエルさんは私の言葉を遮るように口笛を吹いた。


 どうして今口笛を?

 そんなに私の話を聞きたく……。


「クワー!」


「うわ!」


 目の前に大きな鳥が降りてきたので、私はとっても驚いた。


「お前達は歩いて探せ、俺は空から探す」


 そう言って、サミュエルさんは鳥の上に乗った。


 すごい!


「私も乗りたーい!」


 ぴょんっとサミュエルさんの前に座ってみる。


「おい、降りろ!」


「どうして?」


「こいつを操るのは難しいんだぞ」

「お前には無理だ」


 またまたムッカー!

 そんなこと言われたら、やりたくなっちゃう!


「見てて!」


「おい! 何をする気だ!」

「魔力をうまく使わないと……」


 魔力?

 なんのことかわからないけど……。


「そんなことしなくたってできるもーん」


「は?」


 さっきみたいに……。


「クワクワ!」

「鳥さん、私がシエラちゃんを探すの手伝って!」


「そんなことで……」


 サミュエルさんは呆れ顔……。


「おう、いいぜ!」


 でも、鳥さんは元気に了承してくれた。


「こんな無愛想な男を乗せるよりよっぽどマシだぜ」


「お前……!」


 サミュエルさんは顔をより不機嫌にした。


「ね、いいでしょ〜?」


 私が頼み込むと


「どうなっても知らんからな!」


 と言って、サミュエルさんは怒りながら鳥さんから降りた。


「お嬢さん、しっかり捕まっててくださいよ」


「わかった〜!」


 その瞬間、私の体はものすごい風を感じながら空に舞い上がった。


「気持ちいい〜!」


「なんなんだあいつは……」


「面白い子ね〜」

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