四章-02 「ご機嫌よう、お久しぶりねエリス!」

 待ち合わせ場所としてエリスが指定されたのは小洒落たカフェだった。

 裏路地とか、怪しげな工業地帯とか、てっきりそういったいかにもな場所を指定されると思っていたエリスは少々驚いた。そんな怪しげな場所に一人で行くことにならなくて良かった、とも思ったけれど。

 パステルを基調にした店内をぐるりと見回す。店内は女性客が多く、テーブルには可愛らしく飾られたケーキが置かれていることが多かった。

 先に入っているように指定されたから、エリスの前にはコーヒーが置かれている。本当はケーキも魅力的だったけれど、待ち人を待っているときにケーキを食べるのもおかしいかと思って我慢したのだった。

「まだかしら」

 時間を気にするつもりはなかったけれど、思わず言葉が出る。何時にこのカフェに、とは言われたけれど、何時に相手が来るかは判らないのだった。

 落ち着かずにコーヒーで唇を湿らせる。ところでエリスは相手のことを知らないし、相手もエリスのことは知らないはずなのだけれど、どうやって合流すれば良いのだろう。

 エリスのそんな心配は、幸いなことに杞憂になった。

「ご機嫌よう、お久しぶりねエリス!」

 軽やかに、愛らしく、声がかかる。エリスは顔を上げた。

 青い、少女だった。

 ふわふわとした青い髪に、同じ色のドレス。そのまま社交界にでも出られそうな愛らしい格好で、腰に手を当てている。

「お変わりないようで、何よりだわ」

 同時に、店員が商品をサーブしてくる。店に入ると同時に頼んでいたらしい。

 チョコレートのケーキに、綺麗な紅茶が二つ。

「二つ?」

 驚いて顔を上げれば、愛らしい少女の後ろに同じ顔がもう一つ。

「初めまして、エリス・ロサ」

「初めまして、エリス・ロサ」

 低い声に続けて、少女が再度言いつのった。

「双子……」

「そうよ。彼は私の兄、シエル・ヴェルテ」

「彼は僕の弟、オセアン・ヴェルテ」

「よろしく、ロサ」

「よろしく、ロサ」

「双子……えっ、弟?」

 ということは、この可愛らしい少女は少年ということか。もう、何から突っ込めば良いのか判らない。

 エリスが困惑している間に、二人はエリスの向かいに腰を下ろしていた。オセアンが躊躇なく紅茶に手を伸ばす。

「あら、美味しい」

 うふふ、と上機嫌にオセアンが笑った。ぱっと花が咲いたような笑顔だった。

「このお店、前から気になっていたの。やっぱり誰かと話すのなら美味しいお紅茶とケーキは大切よね」

「気に入ったみたいで、良かったよ」

 上機嫌なオセアンにシエルも楽しそうな顔をしている。放っておくと二人で完結しそうな世界に、慌ててエリスは割り込んだ。

「あなたたち、アーメの友人よね。シルヴァの居場所を知っているのかしら」

「おかしなことを言うのね。あなたが一番シルヴァの場所は知っているでしょうに」

 本当におかしげに返すオセアンに、エリスが困惑する。そんなエリスの困惑を置き去りに、オセアンはケーキを口に放り込んだ。

「行きましょう、エリス・ロサ。あなたの行く先に、あなたの求めるものがある」

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