kaRa・kaRa な私

 彼の幼馴染みの言葉に釣られてうっかり来てしまった屋上公園。

 まさか彼に会うなんて。

 後悔よりも湧き上がる高揚感。


 いつかの日々を思い出す。

 中学の委員会で何度も顔を合わせるうちに、周囲の印象とはまるで違う意外な人物像に惹かれた。

 高校にあがって想いは更に募るが、か細い糸を繋ぎ留めるのがやっとで簡単にはいかなかった。

 そして今も、訳ありで近付くことが憚られたあの頃のように、隣り合うベンチに一定の距離を保ちながら細々と話す。


 彼の甘党は相変わらずで、勤務先の百貨店でスイーツを漁ってはここに持ち込むと、渋々ながらも共に食してくれるのがとても嬉しい。

 別にやましいことはしていない。

 元来訪問者は皆無だし、会話も世間話のみ。万が一の事態が発生しても、傍から見て〈菓子を食べ合う不思議な人達〉くらいで済むはず。

 彼に危害が及ぶことは避けなければならない。


「こんな所に来ない方がいいんじゃないですか、くそ寒いしHPが下がります……」

 あの頃からゲーム好きだった彼らしい一言。

「私はMPを上げに来てるんで、ごめんなさい、また来ます」


 た逢いたい

 う少し話したい

 っと近付きたい、イント。

 略してMP。


 左薬指のプラチナは間もなく消える。

 それまで、ささやかなこの時間を糧に生きていくのは卑怯だろうか。



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