闇の雨−4

 気が付けば春が訪れていた。

 分厚いコートはトレンチやジャケットに変わり、夕暮れはゆっくりと進んでいく。


 ここ一週間。


 ひとりきりで甘味を頬張り、約束通り陽が落ちる頃にエレベーターに乗る日々が続いている。

 再会した頃に比べたら突き刺さる冷気も無くなり、空気も随分和らいできたのに。

(寂しいなぁ、迷惑だったのかな……)


 でも今日はあなたが来るまで待つつもりでいる。


 離婚届は呆気なく受理された。

 あの労力は一体何だったのかと愕然とする程に。

 感情のすれ違いは諍いのみを生み、ひびが入った関係はやがて深い溝となって修復の道を断つ。

 それがあの縁の運命だったのだ。


(思えば、随分と遠回りしちゃったなぁ……)

 ここにきて、胸の奥底にしまい込んだ想いがふつふつと湧き上がる。

 狡い奴だと非難されるかも知れない。

 それでも今は、長い闇を漸く走り抜けて温かな光に包まれる喜びに浸らせて欲しい。


 一息ついて宵の明星に左手を伸ばす。

 薄く残る指輪の跡は時が消してくれるはずだ。

 これで、綺麗な星空の下でいつまでも話すことが出来る。だから、今まで躊躇ってきたあなたのすべてを教えて欲しい。

 今日からは隣に座って温もりを感じたい。

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