春−4
気が付けば春が訪れていた。
ダウンジャケットは、マウンテンパーカーや薄手のジャンパーに変わり、夕暮れはゆっくりと進んでいく。
ここ一週間。
わざと時間をずらし、存在を悟られぬよう息を潜めて見守るために死角を選んだ。
これ以上は耐えられないから。
それなのに。
星も幾つか瞬き始めているのに。
既婚の身で、
こんなうら寂しい所で、
「一体何をしている?」
振り返り彼女は言う。
「良かった、来ないのかと思った。座って、御菓子を食べながら話したいことが有るの」
もう限界だ。
差し出す菓子を払う。
「今すぐ帰れ、最近物騒だと言ったろ」
彼女の腕を掴み強引に連れていく。
「ちょっと待って、話が――!」
「俺にはない。反論するなら、無理矢理にでもそのうるさい口を塞いでやる。忠告を聞かないお前が悪い」
壁際に追い込んで至近距離で警告する。
見つめる長い睫毛の大きな瞳。
「お願い、落ち着いて聞い……んっ!」
最初で最後の、接触。
そう、俺も男だと判らせてやる。
最低最悪だがこれでいい。
「二度と来るな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます