闇の雨−2

 とある夕暮れ前。

 彼らの言葉を思い出し、迷いながらも例の公園へと足を運ぶ。以前から存在は知っていたが、ある理由で避けていた場所でもあるために勇気がいる。

 躊躇う指先で昇りボタンを押し、着いた最上階のエレベーターホールのガラスドアを開けば、吹きつける冷たい風がひゅるっと前髪を揺らす。

「うふぅ、寒い……」

 マフラーをキチッと巻き直し、コートのポケットに手を突っ込んで最奥のベンチへ腰を下ろす。


 誰一人居ない、私だけの世界。

 足を投げ出し、ぼーっと見上げる空には雲がぽつんと浮かんでいる。

 あれに乗ってどこまでも行けたなら。

 瞼を閉じて想像するも、時折頬を刺す冷気が邪魔をしてなかなか空想世界へと飛ばしてくれない。

 あくまでも現実を見ろという事か。

 些か神様に抗議したいところだが仕方ない。

 諦めるとしよう。


 溜め息をつきながら立ち上がり、目の前の手摺に腕を組んで身を委ねる。

 ちらりと眼下に広がる、蟻の如く行き交う人々と時折響くクラクション音。まるで箱庭のよう。

 反して人気ひとけのないここは、冬枯れた草木さえも今の私の心に痛みを与えていく。

(あぁ、相当メンタルやられてるなぁ……)


 どれだけそうしていたのか、いつの間にか西に傾く春の陽が向かいのビルの隙間に差し掛かる。周りから若干離れた西向きのこの屋上は、確かに夕陽が落ちる様は見事だろう。

「ふぅ、よっと」

 手摺に凭れて長いこと眺めていた身体を起こして土台に足を乗せる。

 深く息を吸って手摺を握る手に力を込め、やや後傾して勢いをつけたところで、

「早まるな!」

 突然誰かが腕を掴み、後方へ力強く引き戻す。

「きゃっ!何?……えっ、わわっ!」

 足元がふらついた拍子にその相手に思わずしがみついてしまった。

(うわ、やだ、何してんの、私!)

 そして同時に心の中で叫ぶ。


(勘違いしないで。叫びたいだけなんです、私!)

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