用賀マサトの独白

「困っちゃうなぁ……どうしたものかなぁ……」

 ここ最近出来た口癖が溜め息とともに漏れる。

 理由は、思わぬ形で進んだカホとの関係にある。

 欲情を抑え続けた反動で無様なまでにビビリ散らかした結果、散々泣かせた挙句に決定的な台詞までも言わせてしまう始末。

 あぁ、何という大失態。

 腰抜け野郎の意気地なしとは、この事だ。

 こんな事態に陥るならば、カホの指摘通りに初めから余裕ぶらずに晒せば良かったのだ。社会への不平不満を当たり散らかした講師時代の様に。

 それが出来ない程にのめり込んだ。

 喜ぶ顔だけを見たい。

 ただひたすら愛でたい。

 その一心で負の感情は完全に押し殺してきた。

 出せるわけがないのだ。

 余りに醜悪で目も当てられないのだから。


 今や、カホなしでは生きていけぬ身となった。

 楽しそうにギターを弾く姿も、多すぎる課題に嘆き悲しむ姿も、大好物のプリンを美味しそうに食べる姿も、上目遣いで些細なお願いを頼む顔も、栄養バランスが悪いと叱る声も、映画鑑賞でほろりと涙の粒を落とす姿も、抱けないならば捨ててくると怒りを爆発させ、雛鳥の様に守られるのはもうたくさんと泣きじゃくる姿も、全部、丸ごとオレのもの。

 家族以外の他の誰にも見せたくない。

 絶対に見せてなるものか。

 強く強く願う想いは止め処無い。

 出来ることなら我が家に閉じ込めてしまいたい。

 この尽きない愛だけを糧にして生きて欲しい。

 息が詰まるならば職場へ同行させよう。

 就職先も決めてしまえば公私共に―――(中略)


「暇さえあればこんな事ばかり考えるとは、我ながらイタいよねぇ……肌を重ねることでより一層強まる独占&支配欲とか、無尽蔵に湧いてくる献身欲とか、本当に困っちゃう……これって、ヤンデレとメンヘラのどっちかな? 一歩手前のヤバイやつなのは確かだよねぇ……表面化せぬよう細心の注意を払わないと完全にドン引かれて、最悪……なんて……絶対に嫌だぁぁぁ〜!!」 


 顔を覆って天を仰ぎ、身悶えてはのたうち回る。

 その後もブツブツと溢れる泣き言は昇華できずに白い天井へ積もっていき、一周廻って落ち着いた頃に冒頭の口癖に戻るのである。




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