第8.5話 最高に駄目なヤツ
昼食後の足指ガッツン事件も落ち着き、さてさてと本題に入らせていただく。
「では、これよりお宅初訪問の儀式を行いま〜す」
「んんん?」
「しらばっくれても無駄ですぞ。さあ、速やかに出すのです、卒業アルバムを!」
「あー、それかぁ」
「大丈夫、そこの本棚に保管してるのは確認したから。見せられないヤバいモノが挟まってるなら、今のうちに撤去すれば不問とします、さぁさぁ」
「何も入ってないし、寧ろ何を挟むっていうのさ」
「思い出の品が有るかも、じゃないですか?」
「無いよそんなの〜。疑うなら、はい、どうぞ」
「ありがとうござ……おや、中学は?」
「んー?無いなら実家かな?」
「目が泳いでる。小・高を出した際にコッソリ隠したのはお見通しですよ。罰として一番に見せていただきます、さぁ早く!」
「これは……若々気の至りだから見ないで欲しい」
「思春期は全員にあるから気にしない♪フムフム、クラス数が多いね。何組? あ、居た! おぉ? 挑戦的な瞳で構えてますね……他のスナップも年を経る毎に柔らかな笑顔の中に鋭さが備わってます。そういえば、ヤンチャ君だったよね?」
「うぅ、地獄だ、悪夢だ……マジで恥ずかしいからもう終わり!」
「待って、まだ全部見てない!」
「小学生のかわいい頃を堪能しなさいって!」
「途中で引っ込めるのはズルイ! えい、やあ!」
「ちょっと、そんなに押し引きするなって―――わ、わわ!」
ドスンッ!
ダンッ!
「痛ぅ……ビックリし―――!」
「ごめんなさい、大丈―――!」
頭を擦り片肘を着いて半身を起こすあなたとの。
はらりと落ちる髪から心配そうに覗くきみとの。
視線が交わって。
ちらっと落ちて、また交わって。
少しずつ距離が縮まって。
無駄に瞬きも増えていき。
そして瞼が閉じきる三秒前。
ピピッ、ピピピッ、ピピピピピ……♪
アラーム鳴動。
「時間、なのかな?」
「そうだね」
ふわっと優しく微笑み合って。
床に着いた指が重ね合って。
再び瞼を閉じ合ってみる。
◆ ◆ ◆
顔を赤らめながら努めて冷静に振る舞うきみ。
その一方で。
オレに見つからないようにこっそり身悶えたり、ニコニコしたり、ぱたぱたと顔を扇いだり。
その照れまくりな仕草を目にすると伝染したようにこちらも顔が熱くなり挙動不審に陥っていく。
表情筋はいう事を聞かず、会話もままならず、何の為にきみと離れなければならないのかさえもスッポ抜ける始末。エレベーターで他階の住人と乗り合わせた拍子に手の甲が触れても、こそっと人差し指を動かすくらいが関の山。
余裕もへったくれも有りゃしない。
「送れなくてごめんね。帰り道、気を付けてよ」
離れがたいオレに、明るいから大丈夫だと笑う。
「じゃ、また連絡する」
心をわし掴む弾ける笑顔で、待ってると呟いて。
「いってらっしゃい」
小さく手を振りオレを見送る。
―――あぁ、これ、最高に駄目なヤツだ。
「うん、いってきます」
こういう小さなやり取りを〈幸せ〉と言わずに何と言うのか分かる奴が居るならば、どうか勿体ぶらずに教えてくれ。
◆ ◆ ◆
あの後、照れが勝って目を合わせることも儘ならないのは余りにも拙すぎるので、何とか踏ん張って普段通りを装う。が、どうしても自分の事しか頭になくて、ギターを抱えたあなたを見送る際にちゃんと声掛けが出来て良かった。
不自然になってなきゃいいけれど。
家路についてふと気付くと思い出されるあの
うわぁ、とうとうしちゃったよ、ちゅー!
唇が触れ合うとあんな感触なんだ……なんて忘れるくらい真っ白だ。
あれ、何で? 初ちゅーだよ?
普通、覚えてるものなんじゃないの?
何か、おかしくない?
私の頭、大丈夫?
まだまだ愛が足りないの?
何で、何で覚えてないの、何で〜!
いやいや、落ち着き給え、私。
今夜も連絡があるかも知れんのだ。
こんな事態を覚られぬように冷静を保たねば。
いやぁ……でもぉ……何で……。
それは緊張と興奮で頭がぶっ飛んだだけだよ、とタナちゃんに言ってもらって少しは心が軽くなる。
無事に解禁したのだから、これからは気の済むまでし給えよ、とも。
なんて事を言うんだ、心の友よ!
あぁ、恥ずかしい!
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