第7話 「How?」→「はう!」

「いよっと!コツ掴んできたじゃん、カホ」

「私の身体能力、舐め過ぎでしょう、はっ!」

「あはは!とりゃ、あー、ゴメン!」

「もー、強すぎ、歩かせないでください!」

「講義ばかりで鈍ってるだろうから、運動、運動」

「誰かさんと違って、バス停からロッカーまで毎日十五分は歩いてます、ていっ!」

「わわっ、何処投げてんの!」

「そちらこそ動きなされ〜」

「一体何者ですか、カホばあさん?」

「じいさんや、早く行かねば何処ぞのワンちゃんに先を越されますぞい」

「誰なんだってば!」

 ふふふ。

 今日は公園でピクニック。

 広場でフリスビーキャッチを楽しんでます。


 昼食はお弁当を作りました。

 情報番組の料理コーナーで紹介していた〈進化系おにぎり〉なるものを試したくなったのです。

 視聴後に料理サイトで検索。

 早速出てくる、和、洋、中、韓、様々な具。

 中でも、サンドイッチの如く組み合わせ次第でタンパク質もビタミンも同時に摂取できる〈折り畳み系〉は、食事の手軽さと断面映えの美しさも兼ね備えており、まさに一石三鳥。これに足りない栄養素とあなたの苦手なきのこを忍ばせれば。

 完璧でしょう!

 と、つい栄養バランスを構築したがる脳内に、目標へと一歩一歩進んでいる実感が湧いてくる。

 あなたにとっては迷惑な話かも、だけどね。


「真似してあれこれ詰め込んでみた」

「んー!この鶏の照り焼きのヤツ、美味い。千切り人参にスプラウトとリーフレタスとか野菜もタップリだ。甘辛にマヨネーズってたまらないよね」

「ちなみにソースに入ってますよ、

「うん、気付かない振りしてやり過ごしたかったのに言いやがったな、と微かに殺意が湧いた」

「うわぁ、そこまでか。きのこは凄いんですぞ?」

「それは散々聞きました。〈無理なく楽しみながら且つ美味しく食べる〉がモットーですが、可能な限り頑張りますよ」

「素晴らしい心構え。隠し甲斐があるってもんです。それより、このお味噌汁は手作りなの?」

「冷凍野菜に味噌と粒だしを纏めただけだけどね。オレの料理スキルはここまでだから、当てにしないでよ」

「いやいや、今どきの独身者おにいさんにしては頑張ってる方ではないかと……おや、野菜が繋がってる」

「たまにやらかす、当たりくじ。おめでとう!」

「まさか、自分で切って保存してるの?」

「オレ、一人っ子で共働き家庭だったから、ちょっとでも楽させたくて味噌汁作りだけは覚えたんだ。丁度、叔父が面倒見てくれたから、一緒にね。ざっくり基本の切り方は出来るよ。あと〈ササガキ〉が超得意」

「嘘でしょ、ゴボウの?」

「近いうちに豚汁をご馳走しますよ」

「あぁ、何という…」

「最優良物件を獲得した幸せに浸ってる?」

「自分で言うかなぁ」

「オレらしさが出てるでしょ?」

「……もう、何も言うまい」

「ふふーん♪」


 食事を終えて燃焼中の身体を、時折触れる残暑の涼しげな風が駆け抜ける。太陽が雲に隠れて時折現れる日陰は随分と冷ややかだけど、まさかのあなたお手製味噌汁で身も心も温かく満たしてくれた。

 広場では家族連れや友人同士などのグループが再び遊び始め、きゃっきゃと楽しそうな声と誰かが飛ばすしゃぼん玉の天高く弾ける様子を、軽く寝転んだあなたと笑い合いながら眺める。

 こういうのんびりとした時間もあなたとなら退屈だなんて思えない不思議さが、とてもいいね。


「いてて……よっと」

 痺れたらしい腕を振ってあなたが身を起こす。

 並んで体育座りをしてるのが何だか気恥ずかしいけど嬉しくて。無意識に両足がタンタンとリズムを刻んでしまう。

 そんなわかり易い私をあなたがニンマリしながら覗き込む。

 誰かお願い。

 じっと見つめられても顔が熱くならない薬を開発してください!


「カホさん、一つ尋ねたい事が有るんだけど」

「何ですか?」

「ちゅーしていい?」

「……なっ!ま、まさかの質問!わざわざ聞くかな!?」

「雰囲気に流されてはいけませんよ」

「んん?」

「危機意識を持てって話。もう女の園に暮らしてるわけじゃないんだよ」

「……そういう事か」

「で、どうでしょう?」

「あ、あのですね、こういう公共の場はダメです!二人きりなら……いや、でも、自分だけ餃子とか食べてたら身を引く!」

「そうかぁ、じゃまた今度だなぁ。昨日、ニンニク増し増しラーメン食べてた」

「なっ、だったら聞くな!」

「ははは!期待させちゃった?口臭くても良ければ、どうぞ。むー……バチッ!痛い、張り手はやめて!」

「言ったよね、公共の場ではお断りです」

「そうでした。で、カホさん、オレの呼び名って何だっけ?」

「は、はう!」

「いや、一文字目からして合ってないよ」

「……よーちゃん」

「それは講師せんせい時代の用賀のよーちゃん。今は?」

「まー…さとくん」

「ふむ、〈さん〉から〈くん〉への昇格も悪くはないけど、それでもない」

「まー、まー……まだ言わないっ!」

「だから、何でなのさ!」

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