第3話 彼女なら構わない

 本業の昼休憩を職場近くのカフェでとる。

 お手頃価格のランチとおひとり様の長居が許される時間帯の存在が売りで、普段は見掛けない学生らしき姿も入り混じり、今日はいつも以上の混み具合だ。

 ウィィンと自動扉が開き、時間をずらして入店した遅番の後輩くんがキョロキョロと席を探してるので「コッチ来い」と手招く。

 彼は元々お客様だったが、とある要因と自身の勘で我が営業所にスカウトした手前、他の後輩よりもつい構ってしまう。

 贔屓目にならないよう、気を付けねば。


「それ、副業の資料ですか?」

 スマホでとある動画の再生中に問われ、受講者のライブ映像だと返す。時間があるときにこうした副業の整理や準備を行い、当日のレッスンに速やかに対応出来るよう、やれることはやっておきたいのだ。

「休日に惰眠を貪るためではないんですね」

 まあ、そうとも言うね。

「兼務は大変では?」

 当然の疑問をぶつけられるが、一人時間を持て余してる身には逆に有りがたいのだ。

「え、付き合っている人とかいないんですか?」

 いわゆる世間話のひとつだろうが、痛いところを突かれて思わず反撃する。

「そこ聞くとは勇気あるなぁ、先輩に対するセクハラ案件、発生かな?」

「そ、そういうつもりじゃ!」

 あはは、判ってるよ。


 好きな人は、いる。

 が、手を出してはいけない間柄。

 諦めようと目下努力中。


「どんな方ですか?」

 後輩くんの押しは続く。

 職場の奴らは、何故か俺の弱点を探ろうと躍起になっている。そいつらに丸め込まれて聞き出し役になってるな、こいつ。

「凛とした芯のある素敵な人。他の奴らには話すなよ」

 軽くスゴむも、

「弱味を握るつもりはないですよ」

 ニッコリ顔の後輩くん。

 俺の目に狂いはなかった、よしよし。


 会社員の俺は、(昔の癖で)怒ると凍てつく笑みを湛えて周囲を震え上がらせるようだが、面倒見が良く、仕事もサラリとこなす万能兄貴的な立ち位置らしい。単なる経験の差なのだから、持ち上げるのはやめて欲しいのだが。

 彼女にはそんなマトモなところをたくさん見て欲しいのに、先日のうっかりやつまらない愚痴を溢すなど、気付けばいつも情けないところばかり曝してしまう。


 この年齢トシになって気付かされる、想像以上にヘタレな自身の本質。

 幼馴染のアイツらが知る以上に弱点を握られているかも知れない。


 なのに嫌な気は全くしない。

 むしろ構わないっていうのは、不思議だね。

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