余談

第1.5話 カラーテレビ

 年長組になるころにはだいぶおちついた。長らくとまどい、苦労した男女の体の違い、主に尿意のコントロールにだいぶなれてきた。

 女の体って、男より我慢しにくいんだ。

 それまで、オレ、ワタシは今世の親に寝小便娘の不名誉な称号をもらっていたが、やっと返上だ。

 前世を思い出して一年、オレ、ワタシの世界に劇的な変化があった。

 色がついたよ!

 うちには少し古いテレビがあった。家具調の足がついていて、観音開きの扉のついた高級そうなやつ。曾祖父の家からのもらいもの。

 最初に見た時にはびっくりしたね。

 だって小さい箱の中にどこかの遠くの海や大きなホール、そんなのが見えるんだよ。魔法のポータルでもあいてるのかと思った。見たことないけど。

 でも、画面は通り抜けられないし、チャンネルを使えば接続先は帰られるけど一つの接続先は勝手に接続かえていくのでがっかりだった。

 そのころは魔法がほとんど使えない世界だって知らなかったし、小さい子供が魔法使えないのあたりまえじゃん。

 でも、そんな魔法のポータルにも不思議なことがあったんだ。

 色がついていない。

 この世界そのものに色がないのかと思ってたよ。マジで。

 ポータルの表面には静電気がついてることがおおくって手でふれるとぱちぱちするのが面白くってよく遊んでた。

 電気系の魔法って呪文は思い出してたけど他の呪文と同じで使ってもぜんぜん効果がなかったから、この世界には色ばかりか魔法もないと悲しく思ってたな。

 で、静電気を手でかき分けながらライトニングゥとかやってたら……。

 テレビが壊れた。なんかばちっと音がしてうんともスンとも言わなくなった。

 ごくごく弱かったけど、魔法が発動した手ごたえがあった。

 それとともに魔力が抜けるなつかしい感じ。幼児なんだからほとんどあるわけもないし、ワタシはその場でこてんと寝てしまった。

 夢を見た。

 自分が誰かを思い出す前のワタシの視界。

 父にだっこされて、どこか人の多いところで何かを見せられていた。

 きらきらした石だった。きらきらしているだけでごつごつした変哲もない石。

 父が何かいったけど、二歳くらいのワタシはその輝きに魅入られていた。その時に、何かが自分の中に飛び込んできた。

 もう直感でしかないけど、あれがオレがこの体に宿った瞬間で、あの石の輝きが弱弱しいけど魔法を使う力をくれたんだと思う。

 大きくなってから、それが「月の石」と呼ばれるものだったって知った。

 夢から覚めると、テレビが新しくなっていた。

 色がついていた。だいぶ普及していたカラーテレビだった。

 もう足もついてないし、扉もない。でも高級家具感は残してそれ用の台の上に鎮座していた。予定を早めて買い替えたらしい。

 この日からワタシの世界は華やかになった。魔法に目覚め、色を取り戻したのだから。

 カラーテレビを壊さないよう、画面の静電気で魔法は使わないようにしないとね。

 テレビが新しくなって、両親が占有していることが多くなった。チャンネルの権利で夫婦喧嘩をよくしてる。

 その背後を、忍び足の練習かねてつまみぐいしながら、ワタシにももう少しチャンネル権くれてもいいのにと勝手にぷんぷんしていた。

 仕方なく外に遊びに行ったワタシは、つきとばして記憶を戻してくれたさえちゃんを泣かし、女のくせになまいきとか言ってくる男の子たちと勝てるときには喧嘩で倒し、勝てそうにないときは泣いたふりして油断を誘って逃げたり反撃したり。

 前世のギルドでの喧嘩をなつかしく思い出したなぁ。

 いつか、帰るんだ。その日のために小さい体なりにできることをしなきゃ。


 こうしてワタシは玉つぶしのえりかと呼ばれるようになった。うれしくない。


終わり

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