第40話 柳原成二

 柳原成二やなぎはらせいじ



 私は生まれてこれまで男子に告白と言うモノをした事がない。きっと告白する前はこのくらいドキドキするのだろう。勿論されたこともないのだけれど。ほっとけ。


 私はお昼休みに沢村君に初めてLINEを送った。『放課後話があるんですけど時間ありますか?』という内容だったけれど、彼が勘違いしていない事を祈る。話と言うのは柳原成二君の事だ。沢村君の既読は付いたのだけれど返信は無かった。断りのメッセージが無いと言う事はOKという事でいいのだろうと勝手に解釈する。


 帰りのホームルームが終わり私は沢村君の席に向かう。

 「沢村君、LINE読んでくれたかな?」と言いつつも既読が付いていたのは確認している。

 「ああ」と言ってくれた。


 「ここでは話しにくい内容だから場所変えてもいいかな?」

 「じゃあハンバーガー奢れ」

 ええ! 沢村君と二人きりで外食ですか。これはちょっと嬉しい誤算でゴザイマス。

 

 「ああ、やっぱビックナックだ」

 ですよねー。


 何はともあれ話を聞いてくれそうで安心する。

 私は初めて沢村君の横に並び教室を出る。吉安さんの視線が槍の様に突き刺さる気がした。


 二人並んで校門を後にする。隣に並びあらためて彼の大きさを実感する。私の顔は幾分赤くなっていたのではないだろうか。なんか心臓もドキドキするし。道すがら彼は当然の様に寡黙を貫く為、私も何も話しかけられないでいた。


 ナックに入りカウンターに並ぶと私達のすぐ後ろに見知った人が並ぶのに気付いた。

  

 「ハ、蝿先輩?」

 私達に気付いた蝿先輩が、

 「あ? ああ、お前らか」とバツが悪そうに眼を逸らす。


 「ところで蝿先輩ってなんだよ? 俺はそんな名前じゃねーぞ。栟田はえだってんだ。覚えといてくれ」

 結構良い線行ってると思うんだけれど。


 「す、すいません」と言ってペコリと頭を一応下げる。沢村君の忍び笑いが聞こえた気がした。


 「あ、沢村君、私買って持っていくから席で待ってていいよ」と私は気を使って言う。

 「ああ、じゃあ頼む」と言って沢村君はテーブルに向かって行った。


 「なんだお前ら付き合ってんのか?」と蝿先輩じゃなかった栟田先輩。もう変換メンドクサイから蝿先輩でいいや。

 「そう見えます? うふふ……」と意味深な返事をした。


 「いや見えねえな、アイツの彼女にしちゃお前地味すぎだろ、ぎゃはは」

 ひどーい! 失礼ねー!

 「蝿先輩に言われたくありません!」プンスカ。


 「ほら順番きたぞ」

 もう、話逸らしたな。覚えておけよ。


 私は沢村君の為にビックナックとポテトのLサイズとコーラのLサイズを注文、自分用としてチーズバーガーとポテトのSサイズとアップルパイとストロベリーシェイクとアイスティーを注文した。

 それらをテーブルに持っていき沢村君の前に並べる。沢村君は私の注文した品を見て、

 「どんだけ食うんだよ」と言う。

 そんなに多いかなあ。


 「アップルパイ半分よこせ」

 えー! これが一番のお楽しみなのに。でも断ったら私がアップルパイにされそうだから素直に言う事を聞くことにする。

 私はストロベリーシェイクにストローを刺し一口飲んだ後、

 「沢村君も飲む?」と言って差し出した。か、か、間接キスをする為に。

 「いらね」

 ガーン! 私がうなだれていると、

 「で、話ってなんだよ?」

 もう! 雰囲気台無しじゃん。


 私は気を取り直して尋ねる。


 「中学1年の時のクラスに柳原成二君っていたよね」と私が言うと彼は少し驚いた表情になった。


 「柳原がどうかしたのか?」

 私はこのままではラチがあかないと思い今までの経緯を全て事細やかに説明した。

 

 「朝霧とそんな事してたのか」

 「うん、それで最後に残ったのが柳原君、というか豊川兄弟なんだけれど」

 「まず、柳原が元々豊川だったって言うのは今初めて知ったぞ。それにあいつに兄弟なんかいなかったと思うけどな」

 「え? そうなの」

 「俺が知らないだけかもしれねーけど」


 そうなのか。私の推理が間違っていたのであろうか。それでも祥太君の写真の彼は柳原成二君だと心のどこかで確信がある。根拠はないんだけれど。


 「それで?」

 「うん、沢村君連絡先知らないかな? 彼の」

 沢村君は私を見つめしばらく黙っている。いやん、そんなに見つめないで。


 「連絡先は分かるけどよ、どうするんだ? 連絡とるのか?」

 「うん、あの時のメンバーに柳原君達兄弟がいたことさえ確認が取れればいいんだ」


 「お前知らねーかも知れねーけど、アイツには関わらない方がいいと思うぞ。アイツはヤな野郎だ。中学に入学したての頃は俺も連るんでいたけど、なんつーか、普通じゃねんだよアイツ」

 やっぱり私の記憶にもある柳原君のイメージに間違いは無い様だ。


 「どうしてもと言うなら教えてやる。だけどな、Eメールにしとけ。電話番号の判るLINEやショートメールで連絡を取るな」

 なんかスッゴイ怖くなってきたんですけど。そんなヤバい人なんでしょうか。


 「うん、ありがとう。じゃあ取り合えずEメールで連絡とってみるね」

 沢村君の言いつけを守ろう。


 沢村君はスマホを取り出し電話番号とEメールのアドレスを見せてくれ、私はそれをスマホの画像に保存した。


 「もう要件は済んだのか? 俺はもう行くぞ」と言って沢村君が席を立つ。


 「待って! 一緒に帰ろう!」と私は無意識に彼の袖を掴んで言った。

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