第41話 こぼれたおはじき
こぼれたおはじき
『水原さん、お久しぶりです。元気ですか? 突然の水原さんからのメールに戸惑いましたが覚えていて下さりありがとうございました。若葉7戦隊、懐かしいですね。勿論覚えていますよ。そうだったんですか、水原さんもあの時一緒にいたのですね。話は変わりますが、僕は君に謝らなければなりません。中学1年生の時の事覚えていますよね。あの時僕は沢村君の何気ない発言に同調してしまい君に酷い事を言ってしまったのです。君の耳に届いたのか判りませんが、「嘘つきじゃん」と僕は言いました。あれ以来君は孤立していまいましたね。そんな君を見ていつも心苦しくなっておりました。僕の配慮の無い発言のせいで君を苦しめた事を猛省しております。君は今神奈川の高校に通っていると聞きました。許してくれるか分かりませんが直接会って謝罪したいです。 返信お待ちしております。 柳原成二』
先日柳原君からこんな返信メールが届いた。その日の夕方寮に戻った後彼にメールをしたのだ。ただ祥太君達の事は伏せておいた。今現在私が当時の事を思い出し同じクラスだった柳原君だけを覚えている事を伝えた。
その返信がこれだ。正直私は戸惑った。あの時の事を謝罪したいという。謝罪などもうどうでもいいのだけれど、本人が謝罪したいと申し出てくれているのを無下に断るのも憚られる。
それに彼の言葉遣いや丁寧な姿勢にも驚いている。私の知っている彼はこんな風だっただろうか。沢村君にも『ヤバイやつ』呼ばわりされていたけれど、そんな印象は受けない。
それでも私は慎重になり、『もう気にしないでください』と返信したのだけれど、『それなら久しぶりに会って思い出話でもしませんか。近くまで出向きますよ』と来た。
こうされると正直断り切れない。些か不安だけれど、放課後の学校の近くならば問題無いだろうと思い了承の返事をした。
それでも電話番号を伝えるのだけはやめておいた。彼からも催促が無かったし。
沢村君に相談した方が良いのだろうかとも考えたのだけれど、沢村君は柳原君の事を良く思ってない様だし変に顔を合わせて場が凍り付くのも嫌なのでやめておく。
そして今日がその待ち合わせの日になる。こんな平日にもかかわらず彼は出向いてくると言う。学校は大丈夫なのであろうかと心配してしまう。
待ち合わせ場所は学校と寮の中間にある曲がり角の公園にした。正直言って柳原君と二人でカフェやナックに入るのも気まずいし外の方が何かと安心出来る気がするからだ。
校門を出た辺りで、『公園に到着しました』とのメールが入る。10分程で着く旨返信し歩みを早めた。
私が公園に到着し中へ入ると芝生を背にしたベンチに一人の男性が座って本を読んでいる姿を見つける。遠目にみても柳原君だと判った。3年前に比べると明らかに大人びて落ち着いた雰囲気に見える。私の記憶にあるあの頃の様な厭らしい佇まいは微塵も感じさせない。明らかに彼は変わったようだ。
彼は私に気付くとすっと立ち上がりペコリと頭を下げた。私も彼に近づき、
「すいません、お待たせしました」と頭を下げた。
「お久しぶりです、水原さん」
「柳原君、久しぶり」と答える。
「水原さん、まずは謝罪させてください」と、彼は深々と頭を下げる。そして、
「あの時は申し訳ありませんでした」と言ってくれた。
「本当もうに気にしてないから、大丈夫、頭上げてください」と私は慌てて言う。他の来園者の目もあり気恥ずかしさもあった。
「歩きながら話しますか?」と問われ、少し安心した。ここで立ちっぱなしで話すのもアレだし、お店に入るのも躊躇われたから。
私達はゆっくり歩きながらありきたりな思いで話に花を咲かす。
6月になりもうすぐ午後5時になろうかとしているけれど、陽ままだまだ高く日差しが容赦なく私達を焦がす。
「そういえば若葉7戦隊ですが、メンバーは思い出せましたか?」
公園の中間辺りで彼は聞いてきた。
「いえ、まだ柳原君だけです」
と言いつつも私は違和感を感じていた。彼があの時一緒にいたのはもう確実であろう。洋館の事もおはじきの事もそれを埋めた事も彼の方から話してきたのだ。それなのに、彼は壱成君の話を全くしないのである。普通、『あの時僕の兄もいたんだよ』くらいは言うものではないだろうか。
「僕も正直、君しか思い出せないんですよ」
この発言は決定的におかしいと思った。何故兄の事を伏せているのであろう。
指摘するべきであろうか。彼が伏せておきたいのならば敢えて言う必要も無いのかもしれない。
私はカマを掛けてみることにする。
「柳原君って何組だった?」
「君と同じ組ですよ」
「何組?」
「さあ、何組までは覚えていないんですが、君と同じ組だったのは覚えていますよ」
彼の言い分が正しいのならば壱成君がスミレ組だったのであろうか。しかし祥太君は成二君の事は思い出せず確かに壱成君の名を挙げたのだ。
いつしか、子猫をがいた場所辺りまで歩いてきてしまっている事に気付く。
「今後まだ残りのメンバーを捜していく気ですか?」と彼が言った時の目を見て、私は戦慄した。明らかに先程までの穏やかな目つきではない。
私の本能が警鐘を鳴らす。これ以上はヤバイと。
「いえ、もう手掛かりもないし、諦めます。そろそろ帰らないと……」と時間を確認するフリをしてポケットからスマホを出した時、何かがポケットから一緒に飛び出し地面に落ちた。
柳原君はそれを見ると、大きく目を見開き、
「そ! それは!」と叫んだ。
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