第29話 佐々木遥希

 佐々木遥希ささきはるき



 「ひとまず今判明している事はLINEである程度情報共有出来ていると思うから今日は僕たち4人以外のメンバーについて話し合っていこう。と言っても今日は殆ど霜月さんの話を訊くだけになってしまうかな」

 私と佳代さんは無言で頷く。


 「なんでも1人心当たりがあるとか?」と祥太君が霜月さんに訊ねた。

 「そうなんですよー。正直、その人が若葉7戦隊のメンバーと同一人物である確証はないのですけれど名前が同じなんですよねぇ。佐々木遥希ささきはるきっていうんですけど、あ、男の子です」

 「ササキハルキ……」と呟き祥太君が考え込む。

 私も考え込む。ササキハルキ。いただろうか、同じ中学に。私の知り合いにはいないのは確かである。でも、同じ学年全員の名前を覚えている訳ではない。これは卒業アルバムでも見るしかないかな。

 しかし、問題もある。私は卒業アルバムを持ってきていない。良い思い出なんかなんにもないし見たくもないからだ。

 ふと、ある人物の顔が思い浮かぶ。沢村君は持ってきているだろうか。もし持ってきていたとしてもそれを貸してくれるだろうか。ひょっとしたら彼の知り合いかも知れないし一応聞いてみる必要はありそうだ。声をかけるのは不安だけど。

 その事を皆に伝えた。

 

 「そうだね、沢村がアルバムを持っていることを祈ろう」と祥太君が言う。

 「私にも記憶ないだから家帰ったらアルバム見てみるだよ」と佳代さん。

 

 「ところで霜月さん、その佐々木君とはどこで?」と私は訊ねた。

 「塾が同じだったですよー。でもー当時の面々の顔は覚えてないですし向こうもシモの事を特別意識していなかったようなので本当にただの同姓同名の別人かも知れないですよー。あと問題があって、その塾は高校進学の為の塾で高校受験が終わったら塾生はみんな別の塾に変わって行くですよー」

 「と言う事は今はもう彼とは会っていないと?」と祥太君。

 「そうなんですよー」

 「その塾行って先生に佐々木遥希の中学とか聞けないの?」と佳代さんは言うが、

 「佳代さん、そんな個人情報教えてくれる訳ないですよー」と霜月さんに言われてしまう。

  

 私は閃いた。

 「中学は無理でも、受かった高校は教えてくれるんじゃ? もしくは堂々と塾内に張り出されているかも」

 「でも、高校判ったところでどうするだよ?」と佳代さん。

 「例えば中学の知り合いに佐々木君と同じ高校に進学した人がいれば訊く事が出来ると思うんだ」

 ボッチだった私を除いて。

 「あ、そっか」


 「霜月さん、辞めた塾へ入る事はできるの?」と祥太君が聞く。

 「例えばお世話になった先生へお礼として伺う事は出来ると思うですよー。ただ他の塾生の高校まで教えてくれるかは判らないですけど」

 「そんなん理由次第だら。例えばシャーペン借りっぱなしだったから返したいとかなんとかさ」

 おお、佳代さん冴えてるじゃないですか。


 「なるほど、それはいいかも知れない。シャーペン位だと大したことないからもうちょっと高価なモノとかなら先生も教えてくれるかも知れないね」と感心したように祥太君が頷く。

 「となると遥希の事はシモにお任せって事になっちゃうだけど大丈夫?」

 佳代さんが霜月さんの顔を見ながら聞く。


 「いや、そもそもさ、別に塾にまで行く必要あるかな? 電話で事足りそうだけど」と祥太君。

 「そう言われてみればそうですねー、高校を聞くだけなら電話でも行けそうですねー」

 「あとは適当な言い訳か……」



 「こういうのは? 『ササキハルキクンの事が好きでした。連絡を取りたいので連絡先を教えてください』 とか」

 佳代さん、他人事だと思って適当に言ってるでしょ。


 「図々しい佳代さんじゃあるまいし、シモにはそんなの無理ですよー」

 ほらみろ。


 「やっぱり借りていたモノを返したいから高校教えてくださいと言うのが一番かも知れないね、あえて何を借りていたかなんて言わ必要もないと思うし」と祥太君が言う。

 「そうですねー」

 「その塾はこの時間から開いてるの?」と私。

 「日曜日は朝から開いているですよー」

 「じゃあもう今から電話するさ」と佳代さんが言う。


 私達は霜月さんの返事を待った。


 「はいはい、わかりました。ちょっと電話してみますよー」と霜月さんは言い、可愛いハンドバックからスマホを取り出し何やら操作している。やがてそれを耳に当てた。

 


 「あ、もしもし、大森です、あ、大森霜月です。はい、はい、2月までお世話になってた……、そうですそうです。ええと、あのう、佐々木遥希君いたじゃないですか、そうです……、え! ええ、その佐々木君です」と言いながら彼女は指で『OK』のサインを出した。

 なんだなんだ?

 「あ、ええと、佐々木君にずっと借りっぱなしだったものがあった事を思い出しまして、彼に連絡を取りたかったですよ……、はい、はい、え? あ、はい! お願いします」と言って彼女は以前佳代さんがそれをやった時と同じようにペンで書くジェスチャーをしたのだ。

 祥太君が慌ててスマホを取り出す。

 

 「はい、お願いします……、090-××××-×××× ……、はい、ありがとうございました」と言って通話を終了したようだ。


 「なんだよ、フツウに教えてくれるじゃんか」と佳代さんが拍子抜けしてテーブルに突っ伏した。


 「最初の時点でいきなり高校を教えてくれたですよ。『東高に行った佐々木君の事?』って」

 最初の『OK』サインはそれだったのね。

 

 「まさか連絡先まで教えてくれるとは思って無かったですけどー」


 祥太君は腕組みをし、

 「さて、問題はこれからだね。誰かが電話をしなくちゃいけない」

 「そんなんシモでしょー」

 「そんな殺生なー」

 「だって私達3人ともその遥希の事覚えてないだよ? シモしか無理だって」


 私はしばらく黙っていたけど、

 「霜月さん、佐々木君とは塾で話したことはあるの?」と訊いてみた。

 「はい、挨拶程度ですけどー」

 「じゃあ名乗れば佐々木君は霜月さんの事が判るんだよね?」

 「おそらくは……」


 祥太君は腕組みをしたまま黙っていたけど、

 「そうだね、ここはやっぱり霜月さんにお願いするしかないかな」

 私もそう思う。問題はどう話すかだけれど。まず同姓同名の別人という可能性が残っているため、いきなり若葉7戦隊から切り込むのはやめておいて、出身幼稚園を聞くことからかな。それで若葉幼稚園ならそのまま7戦隊の事を話せばいいと思う。

 私がそう提案すると、

 「仕方ないですねー、分かりました。シモやってみますよー」と霜月さんは言ってくれた。

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