第28話 PINKHOMEの女の子
PINKHOMEの女の子
「東口ってこっちかな?」
祥太君が案内表示を見ながら言う。
「こっちっぽいよ」と反対方向を指差し私は指摘した。
小田原駅。いよいよ今日
「彼女達はもう着いて東口を出た所にいるらしい」
それはLINEで私も見たよ祥太君。
駅舎から外に出るとすぐ二人の女の子を見つけた。一人は先日会った佳代さんだ。そして佳代さんの横にはまるで絵本から飛び出してきた様な女の子が立っている。
淡いピンクのワンピースは足首辺りまで長く、色とりどりの花がプリントされており、袖口、襟、更にスカート部分の裾に可愛いフリルが付いている。その上から白いニットのカーディガンを羽織りそのカーディガンにも花のアップリケがいくつも張り付けられている。カーディガンの袖口には『PINKHOME』と刺繍されたタグが付いている。靴下にもフリルが付いており、靴はグレーに茶色のサドルシューズ。
か、可愛いぃぃ。PINKHOME。ネットや雑誌などで見かけてはその可愛さにウットリしていたのだけれど実物も見るのは初めてだ。そもそも高額で私の手に負える代物ではない。
それに、すごく可愛いのだけれど、こんなヒラヒラの洋服を着て外を出歩く勇気が私にはない。きっと似合わないし。
華奢なその女の子はそれらを完璧に着こなしている。これは一朝一夜で身に着くものではない。きっと子供の頃から着ているんだ。お金持ちだ、わーわー。
私達は彼女らに近づいていき軽くお辞儀をした。
「祥太、菜端穂ー」と言って佳代さんが手を振ってくる。私も軽く返した。
霜月さんと思われる女の子は手を前で合わせ、その手にはこれまた可愛らしいハンドバック。柔らかく微笑みながらコチラを見ているが『佳代様、早く紹介なさい』と顔に書いてある。
佳代さんがグズグズしているので私から挨拶した。
「初めまして、水原菜端穂です。コチラが朝霧祥太君」
祥太君の鼻の下は極限まで伸びており上唇が顎に届きそうだ。男の人はこういう服好きなのだろうか。まあ祥太君の服のセンスは特殊だから解らんでもないけど。
「よろしく、霜月さん」と言ってお辞儀する。
「大森霜月ですー。祥太さん、菜端穂さん、初めましてですー。よろしくですー」といってペコリと頭を下げた。仕草まで可愛い。なんか悔しい。
さて、今日の祥太くんであるけれど、前回着ていた黒いメッシュのランニングをなんと素肌から着、その上にデニム生地のブルゾンを羽織っている。当然であるがその胸元の肌が透けて見える。ブルゾンが無ければチ〇ビが見えてしまうでないか。これは公然わいせつにならないのか些か不安だ。
佳代さんと霜月さんは上目遣いで祥太君を見ながら噴き出してしまうのを耐えている感じだ。無理もない。私だって横浜駅で同じ目に会ったのだ。
私は『MILK』という文字とウシさんのイラストがプリントされた薄茶色のトレーナーにシモムラで買ったデニム生地のキュロット。靴はいつもの奴。『MILK』と書かれているのに薄茶色と言うところがポイント。いっそ『MILK』の文字の前に『COFFEE』と自分で書いてやろうかと思ったほどだ。
佳代さんはグレーのパーカーにジーンズ。黒字にピンクの3本線の入ったスニーカー。いたって普通だけど化粧は相変わらず濃い。
「さて、立ち話も何だしどこか入ろうか?」と祥太君。
私は辺りを見渡す。駅舎の前はロータリーになっておりバスが何台か停まっている。ロータリーの先に古ぼけた8階建てのビルがあり道路を挟んで反対側に黒っぽいビルがあるのが見える。高いビルはあまりない。同じ神奈川県でも私達が住んでいる街とはずいぶん違うなあ。
「とりあえず適当に歩こうよ」と佳代さんが提案し皆で歩き出した。
道すがら私は『32』のアイスクリーム屋を見つける。あ、ここがいいなあと思いつつも着いたのは古ぼけた喫茶店。
「ここにしようか」と祥太君が先に入店してしまい私の願いは届かなかった。
席について私達はそれぞれ飲み物を注文する。
それぞれ飲み物が運ばれてき、私はミルクを紅茶に入れてストローでかき回す。それを一口啜ってようやくほっと息をついた。
「佳代ちゃん達はここまでどのくらいかかったの?」
「んー、1時間くらい?」と佳代さん。
「そうですね」と霜月さん。
1時間なら私達と同じくらいだ。本当にこの街は中間にあるんだね。
「じゃあ早速若葉7戦隊について話していこうか」と祥太君が言った。
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