第30話 佐々木遥希へ電話
霜月さんはスマホを手に取り、祥太君が入力した番号をタップし耳に当てた。
「もしもしー、佐々木君ですかー。突然すみませんですー、私大森ですー、塾で一緒だった。はい……、そうです……、その大森ですー」
とりあえず電話が繋がった事に安心する。
「それでー、ちょっと突然でゴメンナサイですけどー、シモお訊きしたい事があるですよー……。はい、いいですかー? 佐々木君って幼稚園どこでしたー? そうそう……、幼稚園です。……ですよねー」
お?
「それでー、シモ佐々木君に思い出して欲しいですよー……、いいですかー? ……、若葉7戦隊って覚えてますかー? ……、ですよねー、ではではですねー、幼稚園の裏の洋館に探検に行ったこと覚えてますかー?」
ひとまず会話は成立しているようだ。
「おー! 覚えてますか! エライ! よ! あんたが大統領!」
こういう場合大抵盛り上がるんですかね。
その後現在までの経緯を説明している様だ。
「じゃあまた連絡しますー」と言って通話を終了したようだ。私達は前のめりになり、
「どうだった?」と聞く。
「ちょっとお待ちくださいー、シモ喉が渇いちゃったですよー」と、勿体つけてジュースを一口飲む。
「とりあえず佐々木君はあの佐々木君でしたー。パチパチパチパチ」と自分で手を叩きながら言う。
「それで?」
「洋館の事も覚えてましたー」
その後霜月さんからの情報をまとめる。
その内容はこうだ。
佐々木君は自分の組を覚えていなかった。
男の子が最低3人はいた。
実は佐々木君は霜月さんの事を覚えていてその他、私、祥太君、佳代さん、さらにもう一人の顔も思い出せるのだそうだ。
ただし、名前を思い出せたのは同じ塾だった霜月さんだけのようである。
「彼は名前は思い出せないのに顔は思い出せるんだね。記憶する仕組みが違うのかな」と祥太君が言う。
「彼とは初めてまともに会話をしたんですけどー、確かにちょっと変わっているですよー、しゃべり方とか」
霜月さんに言われたくないと思いますけどね。
「ただですねー、彼は妙な事を言ってたですよー。あの時洋館に行ったのは6人だったと」
「え?」
「え?」
「え?」
3人が同時に驚く。
「どういう事?」と祥太君。
「とにかくー、全員の顔が思い出せるらしいですよー。で、6人しかいなかったと」
「7戦隊っていうくらいだから7人でしょ?」と佳代さんが言う。
私もそう思う。でも、私もあの時7人いたか正確に思い出せない。皆もそうなんじゃないだろうか。ひょっとしたら若葉7戦隊っていうくらいだから7人いたと勝手に思いこんでいるだけなのでは。
私は訊いてみた。
「霜月さん、若葉7戦隊って命名した経緯は思いだせる?」
彼女は顎に手を当てて、
「うーん、シモ思い出せないですよー。7人いたと勘違いしたのかも知れないですよー」
ありゃ。まあでもこの際人数なんかどうでもいい。あの時のメンバーを全員思い出せればいいのだ。数が減ったほうが逆に良いのではないだろうか。
私は更に訊ねる。
「それで私が一番気になっていることなんだけれど、どうしてその7人、いや、6人か、だったのか思い出せる?」
「覚えてないですよー」
やっぱりか。
「あとですねー、佐々木君スマホ持ってないですよー。いわゆるガラケーというやつらしいですー。だからLINE出来ないですよー」
「うわ、マジで?」と佳代さんが驚く。
「いや、そんなに珍しくないよ。僕も中学まではスマホ持たせてもらえずガラケーだったから」
「うんうん、私なんか中学までガラケーすら持たせて貰えなかったよ。高校入学してやっと買って貰えたんだから」
といっても中学時代はガラケーすら必要なかったんですけどね。ボッチだから。
「まあLINEは出来なくても連絡さえ取れればショートメールでも十分だよ」と祥太君。
「じゃあさ、次は5人で集合するの?」と佳代さんが聞く。
「そうだね、佐々木君にもっと詳しく話聞いてみたいし、次は5人で会えるといいんだけど、霜月さん、彼と連絡取り合って都合つけれるかな?」
「いいですよー。日程が決まればシモ電話して確認してみますよー」
「じゃあ今日の打ち合わせはこんな所かな。でどうかな? まだ時間あるし、せっかく4人いるんだからこの後遊びにいかない?」と祥太君が提案する。
私達は3人揃って、
「賛成ー!」と答えた。
「シモカラオケがいいですー!」
「私アイスクリーム!」
「腹減ったー!」
「ちょ、一気に言わないで」とあたふたしながら祥太君が言った。
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