第12話 救出
救出
私が松葉君に事情を説明すると、
「あのバカだきゃあ!」と言って立ち上がった。
「そんなもん無視して校舎に入っていけばソイツらだって迂闊に手をだせねえのになんでノコノコ付いていくんだあのバカは」と続けて言う。
「ど、どうしよう」と私は半泣きで松葉君に尋ねる。
「水原、案内しろ」と言って松葉君は走り出した。私もすぐ後を追いかける。
ちょうど教室に入ってきた祥太君が、「ナバちゃんおは……」と声をかけようとする横を私と松葉君は『ビューン』と疾走して行く。祥太君の髪が風に靡き彼は口をぽかんとあけて立ち尽くしていた。
「おい、水原、あいつらどっちに行ったんだ?」走りながら問われ、
「体育館の方に歩いて行った」と答えた。
1階まで下りて体育館を目指す。二人で走りながら、
「でもなあ、水原。心配するのは解るが、アイツなら3人位どうって事ないと思うぜ」と言う。
なんですか? その根拠のない分析は。アレですか? 一度拳を交えた者同士が解り合える類のモノですか。
「でも上級生だし、他に仲間もいるかも知れないし」
松葉君の言葉を聞いても安心できなかった。
「ま、そりゃそうか。とにかく行くか」と言い松葉君はスピードを上げ私はどんどん置いて行かれる。
私のせいで。私がドジだから上級生に絡まれて。助けてくれたのに。どうか無事でいて。
体育館の裏が見える角まで来た時、先にそこに到着した松葉君が立ち止まりゆっくりこちらを向き、呆れたように笑う。
私が追いつくと、「ほら見ろ、あらかた終わってるぜ」と言った。
私が体育館裏を覗くとそこには、すでに二人の生徒が倒れており、最後の一人の胸倉を掴んで激しく壁に打ち付けている沢村君の姿があった。
「まあ、でもそろそろ止めねえと相手死んじまいそうだな」と真顔に戻った松葉君が走り出す。
「おい! 沢村! そのくらいにしとけ、もうノビてるぞソイツ」と言って沢村君の腕を掴んだ。
「ああ? 松葉? なんでテメーがここにいんだ、コラ!」と言った直後、少し離れた所に立っていた私を見つけた沢村君が、
「水原、てめーか!」と怒鳴った。
私は怒られるのは覚悟していた。でも構わなかった。どんなに怒られても、怒鳴られても構わなかった。拳をぎゅっと握り締め、沢村君をキッっと見つめ目を逸らさなかった。そして、
「心配して何が悪いの! 私のせいで怪我するかも知れないのに、心配して何が悪いの!」と無我夢中で叫んでいた。恐怖心は全く無かったが私の目には知らぬ間に涙が溢れていた。
私の剣幕をぽかんと口をあけて見ている最恐と最強の不良二人。
沢村君は私から目を逸らし、「ったく、大げさなんだよ」と言って掴んでいた蝿先輩を手から離す。蝿先輩はドサっと尻餅を付き項垂れた。
「あーあー、派手にやったなぁ。生きてるか? コイツ」と松葉君は呆れたようにしゃがんで蝿先輩を覗きこみながら言った。
「とにかく見つかる前に行こうぜ。こいつらも3人がかりで1年生1人にやられたなんて恥ずかしくて教師に言えねえだろ。バレるこたぁねえよ」と松葉君が促す。
「ただコイツらは2年だ。コイツらの上が出てくるとちょっと面倒だぜ」と不安要素もボソッと言う。
「けどまあ、こんなゴミカス達の為に3年が動くとは思えねえけどな」と松葉君が笑いながら言い、「ほら行くぞ、沢村」と言って沢村君の背中を押しながら再度強く促した。
沢村君と松葉君が並んで私の横を通り過ぎていく。私はまだ前を見つめたまま叫んだ時の姿勢のままでいた。
松葉君が私の肩をぽんと叩き、「水原、教室に戻ろうぜ」と言って微笑んだ。
私は手で涙を拭い2人の後に続く。
松葉君は両手を頭の後ろにやり、「あーあ、こりゃ完全に1限目遅刻だな」と笑いながら言う。
ただでさえ背の高い二人が更に大きく見えた。
4月の暖かな日差しが私達を照らす。私は前を歩く二人の背中にそっと、「ありがとう」と呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます