貴女には負けません!
シーラ・ハンネルはルーカスの許嫁であった。
オリヴィアはそれを聞いてすぐ様納得した。
それからオリヴィアも、シーラの挨拶に倣って、同じくドレスの裾をつまんで挨拶する。
「初めまして、私、オリヴィア・ハワードと申します。
ルーカス義兄様の義理の妹です」
ここで妹なのに変にルーカスを呼び捨てする方が不自然だろうと初めて兄様呼びしたのだが。
「オリヴィア様! 俺のことを兄様だなんて……!」
ルーカスのせいで台無しになってしまった。
「オリヴィア様?」
シーラはじとりとルーカスと私の方を見やる。
側から見れば、妹の私が兄に様付されてるのは、おかしな話だ。
「あ、いや、これは勝手に何故かそう呼ばれてるだけで」
「オリヴィア様はとてもお美しい女性だ。
だからシーラ様、婚約は破棄にしてくれないか」
「え?」
「は?」
私が弁明しようとしたら、いきなりルーカスが爆弾発言をかましてきた。
「はああ!?
何言ってるのあんた! 許嫁の前で!」
私はついいつもの喋り方でルーカスの襟元を掴みブンブンと振る。
「オリヴィア様! 黙っててすまなかった!
いずれ告白された時にきちんと言おうと思っていたのだ!」
そしてルーカスは更に言葉を続ける。
「それから、シーラ様!
君にも、今度会った時にきちんと話そうと思っていた。
本当に申し訳ない!」
それを聞いて、シーラは静かに私達のところへと近づいてきた。
ヤバいと思い、私はルーカスの襟元を離し、ルーカスと距離をとる。
「……それは、どういうことなのですか?」
シーラは俯きながらそう呟く。
「今の今まで、私が許嫁であることを否定されなかったじゃないですか?
私が16になったら、てっきりもう結婚出来ると思ってたのに……!」
そう言って、シーラは私の方を睨んできた。
「あなた! 一体ルーカス様に何をしたんです!?」
嫌われようといっぱい嫌がらせしてました。なんて、口が裂けても言えない。
「私別に好かれる様なことをした覚えないです。
それに、ルーカス義兄様と付き合う気もないです」
ここは正直に言おう、そして、私は無関係だと言うことを分かって貰わなくては。
恋愛事の修羅場になんて、巻き込まれたくないし。
しかし、そこでまたしてもルーカスが口を挟んでくる。
「え? オリヴィア様、今日の買い物は俺へのプレゼントを縫ってくれる為ではないのですか!?」
何がどうしてそうなったのだろう。
私は母が好きなアネモネの柄のハンカチを刺繍をするのに、青や紫が足りなかったから買い足しただけだと言うのに。
「何で私があんたに刺繍で作ったものをプレゼントしなきゃいけないのよ」
「そんなあ! 楽しみにしていたのに!」
そんな私たちのやり取りを見て、シーラは更に怒ってしまった。
「仲が宜しくて良かったですわね……!」
シーラは私を睨みつけて宣言する。
「私、貴女には負けません!
ルーカス様のこと、絶対諦めませんから!」
シーラはそう言い切った後にお付きの人と帰っていった。
シーラが私に宣言した時に、目に涙が溢れていたのを、私は見逃さなかった。
きっと、シーラは本気でルーカスのことが好きなのだろう。
「ねえ、あんた何でシーラさんのこと振ったのよ?
私なんかよりもよっぽどあんたの事想ってくれてると思うけど?」
私はルーカスに訊きながらエスコートされる前にさっさと馬車へと乗り込んだ。
ルーカスもその後慌てて馬車に乗り込む。
「本当は、オリヴィア様に会う前から、何度も婚約を破棄しようと言おうとして……。
結局言えずじまいだった、俺のせいです」
「え、前から婚約破棄しようとしてたの?」
そこは少し驚きだ。
さっきの数分しか会っていないが、シーラはルーカスに負けず劣らず美人だし、私みたいにすぐに手を挙げない。(当たり前だが)
そして、好きな人の前では涙を隠すほどに強い女性の様に思える。
恐らくルーカスでなくても、世の男性が黙っていないだろう。
「ああ、シーラ様はとても素敵な女性だ。それは間違いない。
ただ、俺は本気でシーラ様を好きなのか分からなかった。
だから何度か婚約破棄したいと父にも相談したのだが、自分の気持ちを分からないまま破棄するより、分かってから破棄した方が良いと言われていたんだ」
自分の気持ちを分かってから、か。
人の恋愛に口出しする趣味はないけれど、確かにそれも一理あるのかもしれない。
別れた後でやっぱり好きだったでは遅くなってしまう。
それに、ハワード男爵としても、ハンネル家との交流を上手くやっていきたい以上、よく分からないから婚約破棄なんて、冗談では済ませられないだろう。
かと言って、そんな中途半端な付き合いも不誠実な様な気もするが。
「まあ、恋愛に正しいも間違いもないのだろうけど、だからって私を巻き込まないでくれる?」
そう、私にとってルーカスとシーラのイザコザなど他人事にしか過ぎないのだ。
私を巻き込まないで頂きたい。
「ごめんなさい、オリヴィア様。
シーラ様からはオリヴィア様に手出ししない様俺から言っておきます」
それは、余計に火に油を注ぐのでは?
「いや、あんたは何も喋らなくていいわ」
「では、もしオリヴィア様に何かあったら、絶対に助けますので!」
「いや、別に助けて貰わなくて結構」
私ははぁ、と大きく溜め息を吐いた。
何だか嫌なことが起こりそうだ。
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