僕が案内しますね♪

 僕の名前はノア・ハワードです。

 みんなからよく可愛いとか言われてしまいますが、ちゃんと男の子ですよ。


 そして最近、僕よりも可愛いらしいオリヴィア姉様がお屋敷に来てからというもの、僕は毎日が更に楽しくなりました!


 そして今日も何故か逃げるオリヴィア姉様と鬼ごっこの末、僕が無事オリヴィア姉様を捕まえることが出来ました♪


「何であんたそんなに足が速いのよ……」


 ぜぇはぁと息を漏らすオリヴィアにノアはときめきつつも、オリヴィアの質問に答える。


「それは、実は僕達兄弟は護身術を習っているんですけど」


「ああ、それはエマから聞いたけど」


「護身術同様、僕達は他にも体術とか教えられていて、足の速さもその一つなんですよね」


 ノアがそう言うと、オリヴィアはすんなりと納得した。


 ノアはオリヴィアの走った後の気怠げな感じといい、流してる汗といい、何処までもお美しいお方なのだろうとつい見惚れてしまう。


「……何よ?」


 ノアの視線を感じて、オリヴィアは怪訝そうにノアを見やる。

 何というか、生きてて良かったなとノアは思った。


「オリヴィア姉様は相変わらずお美しいなと見ていました♪」


 ノアが素直にそう告げると、やはりオリヴィアはいつも通り溜め息で返事をする。


 ノアはふと考えた。


 どうしてオリヴィア姉様はこんなにも僕達の愛に気付かないのだろう?


 いや、恐らく気付いてて触れないようにしているのだろうな。

 オリヴィア姉様はきっと他の人の倍警戒心が強いお方だ。


 そこをどうにか、僕はオリヴィア姉様の心に入り込みたい。

 メアリーの様にうまく話せたらと、そう切に思う。


 ノアがそんな事を考えていると、ふとオリヴィアが何かを見つめていた。


 何かと思いノアもその視線の先を追うと、どうやら庭先に見えている花壇の様だった。


「オリヴィア姉様はお花が好きなのですか?」


 ノアがそう尋ねると、オリヴィアはいいえと答える。


「好きと言うほどではないけれど、ここは色々咲いてて綺麗だなと思っただけよ」


 それは即ち好きなのでは? と思いつつ、ノアはオリヴィアに提案をした。


「それなら、庭園を見て回られますか?」


 しかし、オリヴィアはすぐ様首を横に振った。


「いえ、結構よ」


 そうきっぱり断るオリヴィアも素敵だなと思いつつ、ノアとしてはもう少し甘えて欲しいと思い、オリヴィアを強引に庭園へと連れて行くことにした。


「ちょっと! いいってば!」


「まあまあ、僕がちゃんと案内しますから!」


 ノアはそのままオリヴィアの腕を引っ張って庭園へと入っていく。


「どうですか?」


 庭園の中でノアがオリヴィアの方に振り返って尋ねると、すでにオリヴィアは庭園をぐるぐると見回していた。


「わぁ……凄いわね」


「ほら、オリヴィア姉様、あそこにはジニア、それからラベンダーにバラも咲いてます」


 ノアからは花を見ているオリヴィアの顔が少しばかり綻んでいる様に見えた。


 きっと見間違いではないはずだ。


「実はここ、エマ姉さんやルーカス兄さんや、他の人もあんまり来ないので、静かにしたい時の穴場なんですよ♪」


 ノアはそう言って中央にあるガーデニングチェアに腰掛けた。


「オリヴィア姉様もどうぞ?」


「いえ、いいわ。庭園をもう少し見たいから」

 

 向かいのガーデニングチェアを勧めるも、断られてしまった。


「オリヴィア姉様、やっぱりお花が好きなんじゃないですか」


「べ、別に見てるだけよ」


 そう言いながらも、色々な花を眺めているオリヴィア姉様は凄く美しいとノアは思った。


 庭園の雰囲気も相まって、まるでそらから迷い込んだ天使の様だ。


 そうノアは心の中で思う。


「ゆっくり出来る良いところですよね?」


 ノアがそう尋ねると、やはりここを気に入ったのか、オリヴィアはこくんと小さく頷いた。


「まあ、悪いところではないわね。

……ところで、何でエマやルーカスはここに近寄らないの?」


 それはですね、とノアは立ち上がって、オリヴィアの前に立つ。


「ジャジャーン!」


 そう言ってノアはそこら辺を飛んでいた蝶々を掴んでオリヴィアに見せつけた。


 そんなノアに対して、オリヴィアは顔色一つ変えずに質問する。


「?

蝶がどうしたの?」


 ノアはやっぱりなといった表情をする。


 まあ、きっとオリヴィア姉様がこんな反応だとは分かっていた。


「やっぱりオリヴィア姉様には効かないですよね。

でも、あの2人になら効果覿面なんですけど」


「え? まさかあの2人、蝶が苦手なの?」


「まあ、虫が全般的に苦手らしいですよ」


 オリヴィアはへぇ、と少し悪そうな顔をした。

 恐らく2人の弱点が分かったからだろう。


 この国は比較的虫は少ないが、下町で暮らしていたオリヴィアは当然色々な虫を見てきたので平気だった。


 けれど、虫を見る事なくお屋敷の中で育った2人は、特にエマは、虫が大の苦手である。


 因みにノアは子供の頃からこの庭園によく来ていた為、兄弟で唯一虫が平気だったのだ。


「良いことが知れたわ。ありがとう、ノア」


 オリヴィアは少し微笑みながら礼を言う。


 ノアはそれを見て咄嗟に下を向いた。


「お役に立てて何よりです」


 少し深呼吸した後、ノアはパッと顔を上げた。


「オリヴィア姉様、もし僕と2人きりで会いたい時は、いつでも庭園に来てくださいね!」


 しかし、オリヴィアは呆れた様な顔で一人で居たいのだけれど、とノアに返事をする。


「あ、そろそろ前回の数学の復習をしなきゃ、私はもう戻るわね」


「真面目ですね」


 オリヴィアはノアを少し睨みつけて、そのまま庭園から出て行った。


 そしてノアはオリヴィアが完全に見えなくなるのを確認して、へなへなと地面に座り込んだ。


「~~っ

あの笑顔は反則だろ……」


 そう呟くノアの顔は耳の方まで真っ赤になっていた。


 何とか赤面しているのを無理矢理落ち着かせていたが、限界だったのだ。


「はあ、まあ、今回は恩も売れたし、良しとしますか……」


 そうノアは一人呟いた。



 一方、オリヴィアはというと。


「あの2人が蝶が苦手なら、蝶の装飾品とか身につければ良いのでは!?」


 と、ウキウキで蝶々のピアスをしてみるも、2人から珍しがられ「ピアス可愛いわ!」「とても綺麗だ!」と余計に声を掛けられるのであった。

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