ごめんなさい、オリヴィアちゃん!

 私エマ・ハワード!

 花も恥じらう14歳の少女ですわ!


 今まで私は14年間特に素敵な殿方に出会う事もなく、刺激に飢えていた毎日でした……。


 しかし! 同じく14歳で2ヶ月歳下の妹のオリヴィアちゃんが我が家に来てからは、それはもう刺激の連続ですわ!


 オリヴィアちゃんは眺めてるだけでも可愛らしいお方なのです♡


 艶やかな長めの紫がかった黒の髪はミステリアスな印象を受けますし、それは物凄くサラサラでいい香りがしますわ!


 そして紫がかった瞳はアメジストの様でそれはそれは美しいですわ……。


 小さな薄い唇からは綺麗な白い歯が並んでおり、整った眉に小さな鼻と耳、どこをとっても全てが可愛らしいですわ♡


「うふふ、ふふふふ♡」


「相変わらず怖いわね、あんた」


 はっ、しまったわ!

 今オリヴィアちゃんがたまたまティータイム中だったので、私も(無理矢理)ご一緒していたのに、つい見惚れて変な笑いが出てしまったわ!


「オリヴィアちゃん、ごめんなさい。

つい見惚れちゃってましたわ!」


「見惚れる様なものなんて特にないでしょうに」


 オリヴィアちゃんはそう言って気怠げに溜め息を吐く。


 はあ、オリヴィアちゃんのそのアンニュイな姿もまた堪りませんわ……♡


「あ、そういえば」


 暫くまた私がお茶を飲むフリをしながらオリヴィアちゃんを観察していると、なんとオリヴィアちゃんの方から話しかけてくたわ!


「なななな何でしょう!?」


 私はびっくりしてオリヴィアちゃんに少し食い気味に尋ねた。


 若干オリヴィアちゃんが引いてますが、その視線も私にとってはご褒美です……♡


「いや、あんた達兄弟って結構みんな強いわよね?」


「強い?」


 はて? 何のことでしょうと私が首を傾げていると、オリヴィアちゃんが続け様に訊いてきた。


「いや、私があんた達に捕まっても、中々振り解けないというか、特にエマは」


「ああ、そういうことですか」


 てっきりメンタルとかその辺のことかと思ったけれど、どうやら純粋に力のことだった様だ。


「それは恐らく、私もルーカス兄様もノアも、一通りの護身術は身につけているからだと思いますわ」


「護身術……そうか、貴族の子供だものね」


 成る程とオリヴィアちゃんは納得したみたい。


「まあ、私は護身術を習う前から握力など他の方よりちょっとだけ強かったみたいですが」


 と、私はちょっとオリヴィアちゃんに自慢してみる。


「へぇ、そうなんだ」


 するとお茶を啜りながらオリヴィアちゃんが返事をしてくれたわ。


 そこで私はハッと気付いたの!

 ここで私の強さを見せたら、オリヴィアちゃんが私に惚れてくれるかも!


「オリヴィアちゃん! 見てて下さい!」


 私はそう言いながらテーブルの上に置かれてるフルーツの中から林檎を取り出した。

 それから、ドレスが汚れない様袖を捲って、そしてーー。


「せいっ⭐︎」


 私が少し力を入れると、林檎は瞬く間にブシュッと音を立てて潰れた。


「ふぅ、久々にやりましたが、まだ出来るものですわね。

普段ははしたないからやるなと言われていたので、特別ですよ?」


 私はそう言って、勿体ないので潰れた林檎をむしゃむしゃと食べていると。


「え、……え?」


 オリヴィアちゃんがポカンとした顔でこちらを見ていたの!


「どうですか!? 見直しました!?」


 えへんとドヤ顔してみると、オリヴィアちゃんは今度は何故かお顔が青ざめていったわ!


「え? オリヴィアちゃん、顔色悪いですわ!?

どうしましたの!?」


 するとオリヴィアちゃんはスクッと立ち上がり、フラフラと何処かへ歩き出した。


「フラフラで危ないですわ!

私が責任持ってお部屋まで連れてってさしあげますわ!」


 私がそう言って肩を掴むと、オリヴィアちゃんは力なく返事をしてくれた。


「いや、いい……。


……やっぱりお願いするわ」


 珍しく、素直に応じるオリヴィアちゃん。

 相当具合が悪いのかも。

 しかし、そんなところも可愛いと思ってしまう罰当たりな私を、神様今だけはどうかお許しください。


 こうして私はオリヴィアちゃんを自室まで連れて行って、本当は看病までしたかったのだけれど、流石にそれは断られてしまった。


 しかし、どうして急に具合が悪くなったのだろう?

 同じお茶を飲んでいただけなのに?


 まさかオリヴィアちゃんの飲んでいた方に何か毒物が入っていたのでは!?


 私はそれを確かめるべくすぐ様広間へと戻ると、もうお茶はすっかり片付けられた後だった。


「メアリー! ここのお茶は!?」


 そう近くにいたメアリーに訊いてみる。


「もう飲み終わられていましたので、お下げしましたよ?」


「え? じゃあ、何か毒とか入ってなかった?」


「お嬢様達に出す前にしっかり毒味はしておりますので、入っていませんよ?」


 それから、メアリーは首を傾げて尋ねてきた。


「お嬢様、何かあったのですか?」


「実は、お茶を一緒に飲んでたら突然オリヴィアちゃんの具合が悪くなって!」


 それを聞いて、怪訝な顔でメアリーは更に質問してくる。


「……それは本当ですか?

お茶を飲んだ以外に何か食べたりとかはしていませんか?」


「ええ、していなかったと思うわ。

あ、後は、私が林檎を握り潰した辺りから急に具合が悪くなっていたわ!」


 するとメアリーは、はあ、と大きく溜め息を吐いた。


「お嬢様。林檎は潰さない様にと言ったじゃないですか」


「しまった!」


 つい口が滑ってしまいました!


「片付けている時に林檎の汁が飛び散っていたから、まさかとは思っていたのですが……。

それと、オリヴィアお嬢様が具合を悪くしたのも恐らくそれが原因ですね」


「え? それって?」


 私はメアリーの言ってることが分からなかった。


「林檎を潰すところなんて見たら、びっくりするに決まってるじゃないですか! もう今後は絶対しないで下さいね!」


「え? そうなの!?」


 力自慢をするつもりが、どうやら私のせいでオリヴィアちゃんは気分を害してしまったらしい。


「そんな! 私のせいでオリヴィアちゃんの気分を害しただなんて!

謝ってくるわ!」


「あ、ちょっと!」


 私はメアリーが止めるのも聞かずにオリヴィアちゃんの部屋に向かって全力で走った。


 部屋は案の定鍵がかかっていたのだが、そんなのも気にせず私は無理矢理ドアをこじ開ける。


 バーンと盛大な音が聞こえたが、今はそれどころではない。


 早く、一刻も早くオリヴィアちゃんに謝らなければ!


「オリヴィアちゃん! 私のせいで気分を害してしまったのね!?

ごめんなさい!」


「いや、ドアぶち壊してまで入って来るなっ!」


 その後私はこっぴどくメアリーに叱られて、オリヴィアちゃんの部屋には新しく更に頑丈な鍵付きの扉が設置された。



 一方オリヴィアはというと。


「末恐ろしいものを見たわ……」


 エマの馬鹿力を嫌というほど見せつけられ、今後エマを無下に扱うのはやめようと心に決めたそうな。

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