是非俺を貴女の物に!

 私はオリヴィア・ハワード。

 母の再婚により、突如令嬢となりました。


 そして今日は、自分の部屋の掃除をしております。


「ふぅ、こんなもんかしら?」


 前回の料理同様、貴族が掃除なんて普通しないのかもしれないが、かといって私がいない時に使用人に勝手に部屋に入られて掃除されるというのは、個人的にどうしても我慢出来ず、私はこうして空いた時間で1人掃除をしているのだ。


「まあ、別に使用人が物を盗ったりはしないと思うけれど、(というか盗られるほど高価な物も持っていないけれど)何となく他人に部屋に入られたくないのよね」


 何というか、潔癖とは違うけれど、強いて言うならば自分のプライベートな空間には足を踏み入れて欲しくないという感じだ。


 それから私は一通り掃除を済ませ、バケツやら雑巾などの掃除用具を使用人に返しに行こうと廊下を歩いていた。


「嗚呼、ご機嫌麗しゅう。オリヴィア様」


 すると、出会いたくない人物が目の前に現れた。


 彼はハワード家の3兄弟の長男、ルーカス・ハワードである。


 私は無言で通り過ぎようとするも、ルーカスは壁に手を当てて行く手を塞いできた。


「邪魔なのだけれど」


「おっとオリヴィア様、一体それは何を持っているんだい?」


 ルーカスは私の持っている物を見やり、分かりやすく驚く。


「オ、オリヴィア様、それは掃除用具では!?

まさか、1人で掃除を!?」


「ええ、そうだけれど?」


 何を驚いているのだろうと思ったが、そもそも貴族は掃除なんて普通しないのだから、当然と言えば当然であろう。


 男性ともなれば、特に。


「何故オリヴィア様がっ!?

使用人の奴が押し付けたのかっ!?」


 血相を変えて怒り出すルーカスに、私は慌てて否定する。


「違うわよ。私が自分で掃除したいって申し出たの」


「成る程。

つまり使用人の仕事を減らすべく、オリヴィア様が率先して掃除を……。

なんてお優しいんだっ!?」


 何やらまた更に誤解をされている様だった。


「いや、私はただ部屋に誰かが入るのが嫌なだけで、別に使用人の為ではないわよ」


 私がそう言うと、ルーカスは意味が分からないという様に首を傾げる。


「?

使用人が部屋に入るのが嫌?

何故なんだい?」


 ルーカスは冗談抜きで本気で問い掛けてきた。


 恐らくルーカスにとっては使用人が勝手に部屋に入って掃除をするのが当たり前過ぎて、私の考えなど分からないのだろう。


「まあ、貴方には分からないかもしれないけれど、世の中勝手に部屋に入られたくない人もいるのよ」


「そうなのか、つまり、許しさえ貰えば入っていいということだな!」


 何だその頭の悪そうな発想は?


 この3兄弟は3人揃って成績優秀なのに、何故か勉強以外で色々と抜けてる気がする。

 ルーカスは特に。


「言っとくけど、あんたは何が何でも許可しないから」


 私が先手で釘を刺すと、分かりやすくルーカスはしゅんとした。


 しかしまあ、美青年がこうも弱々しい姿を見せるというのも、一部界隈では相当需要がありそうだ。

 顔だけで一儲け出来そうだな。とどうでもいい事をつい考えてしまう。


「言っとくけれど、私にそれは通用しないわよ。残念だったわね」


 するとルーカスは何故か顔を赤くする。

 エマと言い、赤面するタイミングがよく分からない。


「そんな強気なお姿!

ああ、オリヴィア様! やはり貴女は俺を何処までも虜にしてしまう魔性のひとだ!」


 と、何やら訳の分からないことを言いながらルーカスは壁に頭を打ちつける。


「ああ、取り乱してしまった、落ち着け、俺!」


 そして落ち着きを取り戻した(?)ルーカスは再びオリヴィアの元に振り返った。


「ふう、やはり俺には貴女しかいない。

今宵、兄妹という垣根を越えて、俺を貴女の物に……。



って、いない!?」


 しかし、そこにはもうオリヴィアの姿は無かった。



 一方、オリヴィアはというと。



 ルーカスが壁に頭を打ちつけてるお陰でその隙に廊下を抜けて、使用人に無事に掃除用具を返すことが出来た。



 しかし、ルーカスは何で急に頭なんか打ちつけてたのかしら?


 まあ、いいか、ルーカスだし。


 とオリヴィアは考えることを放棄した。

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