僕にも1つ下さいな♪

「よし、出来た!」


 私、オリヴィア・ハワードは、現在日曜日の昼下がり、お屋敷のキッチンでクッキーを焼いていた。


 焼き上がったクッキーを私は1つ食べてみる。


「うん、久しぶりに作ったけれど、うまく出来たわね」


 実を言うと、私はお菓子や料理を作ったりするのが趣味なのだ。


 お屋敷に来てからというもの、勉強やあの3兄弟に追われる日々だったが、やっと週末はのんびりする時間が増えた。


 というのも、大分勉強に慣れてきて、補習が減ってきたというのが大きい。


(因みにオリヴィア本人は無自覚だが、実際は要領も良く賢い為、大体のことは一度で覚えられるタイプである)


 そして折角出来た休日なので、こうしてキッチンを借りてクッキーを焼いていると言うわけだ。


 貴族が果たして料理をするのかはさておき、私はハワード男爵からはお屋敷で好きに過ごしていいと言われている為、キッチンもすぐに借りることが出来た。


 まあ、それにいつまでこの生活なのかも分からない。

 大人になったら出て行かないといけないかもしれないし、出来ることは増やした方がいいに違いはない。


「しかし、張り切って少し作り過ぎたわ、母さんにも渡しに行こう」


 私はそう決めて焼いたクッキーをお皿に盛り付ける。


 すると、背後から声が聞こえてきた。


「美味しそうですね?」


 ノア・ハワードはそう言いながらひょっこりと顔を出しクッキーを覗き込む。


「あら、これは母さんに持ってくんだから、あげないわよ」


 私は皿を持ち上げてノアから遠ざける。


 しかし、ノアは笑顔を崩さずこう言った。


「そうですか。

では、僕はお義母様からいただきますね!」


 こいつ、ズル賢い……!


 確かに母にクッキーをあげる時に、他の兄弟にあげるななんて言えない。


 言ったとしても、母としては私と他の兄弟を仲良くさせたいらしいし、断られるに決まってる。


 それどころか、意地悪なこと言うんじゃないと怒られてしまうだろう。


 まあ、クッキーくらいあげてもいいかとも思うが、しかしこれでは好感度が上がってしまう。


 それならと私は閃いた。


「ねぇ、ノア。これは母さんの分だから、私がノアの為にクッキーを焼いてあげるわ」


 ノアはそれを聞いてパァッと無邪気に子供の様な笑顔を見せる。


「本当ですか!?

僕だけの為に!?」


「ええ、そうよ?」


 喜んでいるノアには悪いが、私にだって策がある。


 そして私はクッキーを早速もう一度作ることにした。


 しかし、ただ普通に作るのではない。


 砂糖ではなく塩を入れるのだ。


 そう、クッキーが不味ければ、ノアもきっと私が料理が下手だと思うだろう。


 それを他の兄弟にも吹聴してくれれば、私への好感度は下がるはず……!


 そしてクッキー(塩味)は無事に焼き上がった。


「はい、どうぞ」


 私は先程のクッキーとは別の皿に盛り付けてノアに渡す。


「わぁ! 美味しそう。

いただきまーす!」


 そう言ってノアは素直に1枚パクりと食べた。


 ノアの表情が一瞬で固まる。


 ふふん、不味いだろう。


 私は内心ドヤ顔する。


 しかし、ノアはすぐ様満面の笑みを浮かべた。


「オリヴィア姉様、すっごく美味しいです!」


「なっ、何ですって!?」


 私は思わず聞き返してしまった。


「はい!

甘さ控えめで、ちょっぴりしょっぱくて、こんな味初めて食べましたが、癖になりそうでとても美味しいです!」


「え? そうなの?」


 私も試しに1枚食べてみる。


 歯触りはサクサクとした普通のクッキーだ。


 肝心の味はというと、砂糖が入っていない分甘さが控えめで、ほんのり塩味がアクセントに効いてて、まあ、正直食べられなくはない。


 というか、これはこれで美味しいかも……?


 そうか、料理中、流石に塩を沢山使うのは勿体ないなと、ケチって少ししか入れなかったから、少なかったのか。


 私は心の中で項垂れる。


 それを知ってか知らずか、ノアは満面の笑みでクッキーを頬張る。


 何だか食べてる姿は子ウサギの様だなぁとなんとなくそう思った。


 そしてあっという間にノアはクッキーを完食させた。


「結構枚数あったのに、食べるの早いわね?」


「へへっ、兄さん姉さんには取られたくありませんからね」


 食べ終わった後もノアはいつも通りニコニコとしている。


「オリヴィア姉様、僕の為にクッキー焼いてくれてありがとうございます。


でも、僕甘いのも好きなので、今度はちゃんと砂糖で作って下さいね!」


 ノアはそう言って、バイバーイと手を振って去っていった。


「流石にバレてたか」


 そう私は一人呟く。


 さて、では最初に焼いたクッキーを母の部屋に持って行こうと、私はクッキーの入った皿を持ち上げた。


 その皿から1枚クッキーが減っていたのだが、オリヴィアが気付くことはなかった。



 一方、ノアは実の兄であるルーカスと、実の姉であるエマにクッキーを見せつけていた。


「いいでしょ? オリヴィア姉様が僕の為にクッキー焼いてくれたんですよ」


「ええ!? ずるいわ! 私も食べたい!」


「なあ、そのクッキー半分くれないか?」


 そういう2人を他所目にこれ見よがしにノアはクッキーを一口で頬張った。


「ああああぁぁぁ!!」


「ひどい! 見せつけるだけ見せつけておいてあんまりだわ!」


「へへーん、オリヴィア姉様が僕の為に特別に焼いてくれたものなので、あげないですよ!」


 ノアは2人を他所にクッキーを堪能した。


 やっぱり甘いクッキーが1番美味しいや。


 そう思うノアなのであった。



 因みに、その後ルーカスとエマはオリヴィアにクッキーを焼いて欲しいと1日中せがみまくり、オリヴィアはやっぱりノアにクッキーをあげるんじゃなかったと後悔していた。

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