一緒にお風呂へ入りましょう?
深夜0時を過ぎた頃。
私、オリヴィア・ハワードはこっそりと自室を抜け出した。
そして、とある場所に足音を立てずにゆっくりと向かう。
誰にも気付かれない様に、そっと、慎重に進む。
実は私はこのお屋敷に来てからずっと気になっていた場所がある。
それは、とても広いと噂の大浴場だ。
生まれてこの方湯船などと縁遠い生活をしていた私にとって、それは未知なる存在。
もう既に入った事のある母曰く凄く気持ちよくてとっても安らげるらしい。
是非とも日頃のストレス(主にあの3兄弟への)発散させるべく、私は人目を盗んでその大浴場へと向かう。
何故こんな深夜にと言われたら、それは当然、あの3兄弟の中でも特にべったりとくっついてくる、エマ・ハワードが、しきりに私と入りたがろうとするからだ。
事あるごとにお風呂を勧められ、どさくさに紛れて一緒に入ろうとしてくる。
お陰で私はいつも自室のシャワーしか使っていなかったのだが。
今日こそは、ゆっくりと一人で湯船とやらを堪能出来る……!
それから私は脱衣所に入り、服を脱いで棚に置き、髪を結び、すぐ様バスタオルを身に纏い、いざ、出陣!
「お、おぉ……」
私は生まれて初めて見る大浴場に思わず感嘆の声を漏らした。
私の部屋と同じくらい広い湯船に、早速私はつま先からゆっくりと身体を入れる。
ちなみに、シャワーはもう既に自室で済ましている。
私は肩までしっかり浸かり、ふう、と一息つく。
足を伸ばしてもまだまだスペースは有り余っている。
軽く10人くらいは一斉に入れそうだ。
「はぁぁ、気持ちいいぃ~。
癒されるぅ~」
私がそう完全に湯船の虜になっていた瞬間、ガラッと誰かが勢いよく入ってきた。
その人物を見て私はすぐ様顔をしかめる。
「オリヴィアちゃん! 1人で入浴だなんて水臭いわ!
エマお姉ちゃんがしっかり背中を流してあげる♡」
エマは裸でそう言いながら大浴場へと入ってきた。
「って、あれ? もう入浴してるの!?
てっきり背中を洗ってるタイミングだと思って期待していたのに!
しかもバスタオルまで纏ってるし!」
そして目に見えてエマは落胆する。
「いや、何で入ってきたのよ」
折角1人でゆっくり入れると思ったのに。
私は残念に思いながらもそう質問した。
「たまたまお手洗いに起きたら、大浴場に向かうオリヴィアちゃんが見えたから、こっそり後をつけてきたの!」
しっかり後ろを確認しながら来たのに、全然気づかなかった……!
まあ、万が一誰かが来た時の為にバスタオルを纏ってて良かったなと思う。
私はもう上がろうかなと湯船から立ち上がると、ジーッと私のことをエマが見てきた。
「何?」
私が訊くと、何故かエマは顔を真っ赤にする。
「いや、オリヴィアちゃんが上がるなら私も出ようかしら?」
てっきり一緒に入りたいとか背中流したいとかダダをこねてくるかと思いきや、エマはすんなりと私の後を追ってきた。
いや、待てよ?
このまま一緒に上がったら、着替えてるところを見られてしまう。
まあ、別に女同士だし、エマは既に裸だし、気にすることはないと思うのだが。
しかし、先程からエマの視線が熱い。
非常に熱苦しい。
私は踵を返し、やっぱもうちょっと入ると湯船へと戻った。
このままエマと一緒に着替えに行くと、何となく嫌な予感がしたのだ。
エマは少し残念そうな顔をしたが、すぐ様湯船に入り私の隣へとやって来た。
「あの、こんなに広いんだから、もうちょっと別のところに行ったら?」
私が提案するも、エマは笑顔で否定する。
「オリヴィアちゃんの隣がいいの!」
と、腕を絡めてくる。
風呂場の中で戯れ付くのは本当にやめて欲しい。
私は腕を離そうとするも、やはりエマの方が力が強いのか、中々離せない。
しかし、私の腕に自身の腕を絡ませてきたエマは、何故だか急に様子がおかしくなった。
「オリヴィアちゃんの、胸、大き、柔らか……」
何やらぶつぶつとエマが小言で言っているがよく聞こえない。
顔が俯いているせいで、表情も分からない。
「ちょっと、エマ?」
私がそうエマの顔を覗き込むと、エマは顔を真っ赤にして、目を回していた。
「ちょっ、2回もお風呂に入るからのぼせてるじゃない!」
私はエマの腕を引っ張って浴場から出そうとするも、エマは既にぐったりとしており、力が入っていない様だ。
「あぁ、もう、仕方ないなぁ!」
私はエマの上半身をグッと両腕で掴み、ずるずると浴場から引き出す。
そしてバスローブを何とか着させて、それから自分もバスローブに着替えて、エマをお姫様抱っこして部屋まで連れて行った。
暫くすると、物音を聞きつけて駆けつけてきたメイドに、私はエマのことを任せる事にした。
「はあ、リラックスする筈が余計に疲れたわ」
それから私は寝巻きに着替えて自室に戻って休むことにした。
一方目覚めたエマはというと。
「あれ? オリヴィアちゃんは!?
私お風呂にいた筈じゃなかったっけ!?」
エマの問いにメイドはあっさりと答えた。
「エマお嬢様がのぼせられたので、オリヴィアお嬢様がお部屋まで連れてきて下さったらしいですよ」
そして冷たいお水をどうぞ。とエマはメイドから水を差し出され、素直に受け取る。
「そうだわ、私、オリヴィアちゃんの……」
確か大浴場で腕を絡ませた際に私より大きいバストが濡れたタオル越しに触れてそれから……。
エマはボンっと頭から湯気を出す。
「嗚呼、オリヴィアちゃんとのお風呂はまだ刺激が強かったんだわ……♡」
顔を真っ赤にしながらぼそりとエマはそう呟いた後、先程言われた言葉を再度メイドに聞き返した。
「え? 私を運んだのはオリヴィアちゃんなの!?
どうやって!?」
メイドはエマにそう訊かれて、さあ、私は見てませんからねぇ。と淡白に答える。
「ああ、私ってば、何で肝心な時に気絶してるのよ!?
折角のオリヴィアちゃんとのスキンシップがぁっ!」
そう嘆くオリヴィアを他所に、ではゆっくりお休み下さいね。とメイドはエマの言動には触れずに出て行った。
それからエマはその夜全く眠れなかったという。
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