だから一人にしてってば!
それから、私の生活は一変した。
下町育ちの私にも勉学を教えるとのことで、他の3人に混じって私も家庭教師の指導を受けることになったのだが、今まで下町育ちの私がいきなりついていけるはずもなく、まずは文字の読み書きから始まった。
(はあ、何だか情けないわ……)
私がそう嘆きながらも1人で補習を受けていると、横からエマ・ハワードが顔を出してきた。
エマも他の兄弟にもれず顔立ちが整っており、緩く巻かれたロングの金髪に、綺麗な碧い瞳はまるで海の様に透き通って見えた。
その顔は何だかよく出来たフランス人形の様に可愛らしい。
きっとさぞかし可愛がられてるんだろうなと思ってしまう。
「私がお姉ちゃんとして教えてあげましょうか?」
ニコニコとそう提案してくるエマに対して私は嫌だ。と一言手短に断った。
「ええー! 私文学は得意なのよ?
どんどん頼ってくれていいのよ?」
と、ズイズイと近寄って来るのが大分五月蝿い。
「集中出来ないから出てってくれないかしら?」
「ああん、相変わらず冷たい……。
でも、可愛い子にそういう態度をされるのも悪くないかも……?」
そう言いながらエマは顔を赤らめる。
「いや、あんた勉強出来ても大分頭がおかしいわよ」
私は薄々この子大分ヤバい子では? と思いつつそれより先は考えない事にした。
続いて美術だが、私は絵も描いたことなんてないしピアノだって弾いた事もない。
「貴族ってこうも一通りやらされるなんて、面倒なものね」
私が真っ白なキャンバスを凝視していると、ノア・ハワードがテクテクとやってきた。
ノアもまた美形であり、まだ幼い為かかっこいいというよりは可愛いと形容するに相応しい顔立ちをしていた。
兄弟の中ではエマに似ているが、瞳はエマよりは透き通っておらず、綺麗な空色をしている。
ふわふわのその金髪はまるで子ウサギを連想させられた。
撫でたら気持ちよさそうである。
「僕、オリヴィア姉様を描いてもいいですか?」
「え? 他の物を描けばいいじゃない」
そう私が否定する横で、しかしノアはもう既に持ってきていたキャンバスをよいしょと設置していた。
「じゃあ描きますね!」
「私に拒否権は無いのかしら?」
ノアはそう言ってニコニコと筆を走らせた。
私はその筆の速さに思わず目を見張る。
(この子、何て素早い筆裁き……!
まるで手元が見えないわ!)
私は驚いてノアを凝視してしていた。
「オリヴィア姉様、そんなに情熱的に見つめられると照れてしまいます……」
ノアはそう言って恥ずかしそうに頬を紅くして照れてみせる。
「いや、私はあなたの筆裁きに若干引いてすらいるのだけれど」
「という訳で出来ましたー!」
「早っ!」
まだ描き始めてものの5分も経たない内にノアは絵を完成させた。
「見てください! オリヴィア姉様!」
ノアがそう言って私に見せてきた絵には、めちゃくちゃに美化されている私が描かれていた。
「いや、私こんなに美人じゃないわよ」
するとノアは首を横にぶんぶん振り、
「何を仰っているのですかオリヴィア姉様!
この絵ですらオリヴィア姉様の美しさはまだ描き切れていないくらいだと言うのに!」
そう悔しそうに答えた。
「いや、それ以上美化しなくてもいいわよ」
私がそう言うと、何やらノアにスイッチが入ってしまったらしい。
「こうなったら、とことん納得いくまでオリヴィア姉様を描き続けます!
お付き合い下さい!」
「え、嫌よ」
私の返事をよそにノアは既に筆を次のキャンバスへ走らせていた。
「もう勝手にしなさいよ」
私はノアを放って置いて、その辺の草木を適当に描くことにした。
そして最後は数学なのだが。
「全く以て分からない……!」
そもそも計算なんて今まで買い物をする際に簡単な足し算引き算で事足りたのに、何だかよく分からない記号まで出て来るし……!
私は生まれて初めて見る記号に頭を悩ませていた。
すると今度は真正面からルーカス・ハワードがひょいと顔を出す。
ルーカスも勿論美形で、年上の為かノアよりも圧倒的にかっこよさなら上である。
髪と目は他兄弟と違って黒く、ミステリアスな印象を受ける。
恐らく黒髪黒目は父であるハワード男爵の血を色濃く引き継いだのだろう。
切長の目は少し近寄り難い印象もあるが、そこがまたクールでかっこいい。
さぞかし女性にモテるだろう。
「お困りかな? オリヴィアちゃん」
「いえ、結構です」
私は少し食い気味に断った。
「いや、しかし、まず解き方も何も分からないのだろう? お兄様が親切丁寧に手解きを……」
「いえ、結構です」
私にそう言われてルーカスは露骨にしょんぼりする。
……何だか少し可哀想に思えてきた。
「コホン、じ、じゃあこの問題はどう解くの……?」
私が尋ねると、待ってましたと言わんばかりにルーカスは目を輝かせた。
「ここはy=4αと分かっているからそれを代入してx=4α+3βとなるところから更にこれをこちらの式の」
「ごめんなさい、さっぱり分からないわ」
そういう私をよそに、ルーカスはすっかり数式を解くのに夢中で私の話を聞いてくれない。
今後ルーカスに何か聞くのはやめようと心からそう誓ったのだった。
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