第12話 奇跡
バスは停車場へ。
「ねいね〜、ねいね〜、はやくはやく」
「はい〜。今行くね」
「あんまりはしゃぐとケガするよ〜」
「だいじょぶだよ〜だ」
「フフフ〜」
私と母は親子で見つめ合い微笑む。穏やかな母娘の関係。優しかったダンナ様のお陰と思いたい。穏やかな心はダンナ様から貰った。
私は3人で御苑へ向かう。私と母と弟と。私は再びこの国へ来られた。
あれから5年……。
母は日本人の旦那さんとの間に子が授かり私に弟ができた。
私はあの時に何も得ぬまま帰国した。父は何も言わずに優しく迎えてくれた。親戚は冷ややか。その後、ネイルサロンを始めた。親戚は概ね反対。父は何も言わなかった。ダンナ様と2回目に会った時、ダンナ様は優しく私の手をとり「指、爪が綺麗ですね」って私を見て微笑んでくれた。「ありがとうございます」って答えた私の心はとても嬉しかったのを覚えてる。他の女性にも同じ思いをして欲しくて始めるネイルサロン。最初からは上手く行かない。当たり前。トラブルもしばしば。お客様は神様じゃないけど、穏やかな心、相手を慮る気持ち、物腰の柔らかい態度。全部ダンナ様から学んだこと。ダンナ様は普段から私に対して、他の人に対して自然にしてましたね。そういう態度での接客を心掛けた。次第にトラブルも少なくなり、お店は順調。経営も安定して5年。省都に店舗を出せるまでに成長した。これも優しかったダンナ様のお陰と思いたい。
念願かなって再びこの地へ立つことができた。
御苑を歩く。花々が綺麗に咲き乱れている。
「多分この桜と思うよ」
「私もそう思う。綺麗」
一画にある雄大に花を付けた桜の木。最後に「本当は貴女と一緒に見たかった」と写メに添えて送られて来た桜の写真。すでに写真は無いけど、母が同じ写真を保存してた。5年前、写メを受け取った時、「やり直そ」って答えてダンナ様の元へ行けばよかったと後悔している。今は同じ桜を見れただけで嬉しいと。そう思うことにする。
御苑から少し歩いて和菓子屋へ。同じく写メで抹茶と和菓子の写真。お店の人に尋ねたらここで間違いない。和菓子は年ごと季節ごとに違うから今は同じものは作って無いと。3人で抹茶と和菓子。弟はまだ早いから別のもの。
「ユエ、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「ねいね?美味しくないの?」
「美味しいよ。すごく」
ちょっと暗い表情になってたのかな。みんなで他愛の無い会話を楽しむ。
「いらっしゃいませ。御一人様ですね」
「•••••••••••」
「?…、ねいねどうしたの?」
ふと、懐かしく一番聴きたかった声がした気がした。入口付近。
「あぁ」
「ユエ?」
「ねいね?」
言葉より心が足が先に……。
「抹茶と和菓子を」
「実演は御覧になりますか?」
「お願いします」
「どうぞこちらへ」
「ありがとう」
「だ…ダンナ様、ダンナ様」
「え?」
振り返る顔は私が一番会いたかった顔。
「ダンナ様」
「え?!、ユエ?」
覚えてる私の事。うれしい。
「はい。ダンナ様、えっと名前…」
「アハハハ」
私が一番見たかった優しい微笑み。
「僕の名前は、・・・・・・・」
涙で視界が覆われ、むせぶる音で声が聴こえない。思わず抱きついた。ダンナ様は優しく私の肩を抱く。夢じゃないよね、この温もり。一番欲しかった温もり。後はどうでも良い気がした。この時間が永遠のものになれば嬉しいと願う。
私は一番大切な指輪を左の薬指へはめた……。一番大切なあの指輪を。
月が綺麗だよ @st4242st
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