第11話 帰途

『对不起妈妈』

『妈妈帮我』

短くメッセージを打つ。


夕暮れ時、大切な物を身に着ける。黒いパーカー、左の薬指に指輪。時計は諦めた。

皆は仕事中。私は理由をつけて残った。

私は出る。決意をした。

「マヤちゃん?」

バレた。

「どうしたの?どこ行くの?」

「私はマヤじゃない。私はユエ。私は出る決意をした」

「ここ出てどうするの?皆心配するよ?」

「関係無い。心配なんてする人はここには居ない」(別の場所にはいる…ダンナ様)

「私が心配するよ」

「ありがとうね。でも、もう決めた。例え裁きを受けても」

「………」

「さよなら。ありがとう」

その場を足早に去る。地下鉄に乗る。母との約束の場所へ。無事に着けることを願う。


私は大切なダンナ様へ罪を犯した。

私自身は罰を受けた。多分そのつもり。

でも、私は大切なダンナへ償いをして無い。出来なかった。淡い期待を抱いた心では償え無い。多分。でも…、でも……。期待や希望は必要だよね…ダンナ様。


プラットフォームへ降り立つ。足早に改札口へ。

母の顔が視界に止まる。足の動きが鈍くなる。ダンナ様との結婚をとても喜んでくれた母。何かに付けて気を遣ってくれた母。私は母も裏切った。母の元を去り自立した。自立したつもり。結果はダメだった。母は怒ってる?呆れてる?母の前に立った。

「………」

言葉が出ない。母は優しく抱きしめてくれは。私は泣いた。


地下から地上へ。

明日、入管へ行く事を告げた。母は何も言わなかった。ルールに従えばそれが正しい選択。もう会えなくなる。母とも、ダンナ様にも。仕方無い…、涙が零れそうになり上を見上げた……、月が綺麗。今日は満月。


ダンナ様、月が綺麗ですね。

もし、ダンナ様も月を見ていたら私達は同じ景色を共有してるね。多分見てるよね……。

ユエは明日本国へ帰えります。優しかったダンナ様が一番私を大切にしてくれたね。今ならダンナ様と家族に成りたい、一緒に暮したいと想える。もう遅いよね。だから…だから……、せめて…ダンナ様。今日は満月。今日もユエは綺麗だよ………。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る