第5話 真夜中

私達は零時に職場から帰る。直ぐ帰る日もあれば、皆で食事する日もある。食事をする日は憂鬱。くだらない世間話を聞くのは嫌い。今日は付き合わされた。満月な事に気が付く。月が綺麗。

部屋に帰り、皆は寝る。私は窓辺から月を眺める。月が綺麗。そう、月が……。


「ただいま」

「おかえり」

目が合う。ダンナ様はいつもと同じで優しく微笑む。

「あのね、買い物」

「解った。じゃあ、行こうか」

「うん」

ダンナ様と一緒に近くのスーパーへ。ダンナ様が私の手を握る。いつも。私は握り返さない。いつも。ダンナ様はそれに気付いているのかは解らない。私の横顔を見ては優しく微笑む。私は見ないふりをする。

「ユエ」

「なに?」

夜空を指差しながら

「今日は満月。月が綺麗ですね」

「ウン。綺麗」

私は普通の返事。

「『月が綺麗ですね』って言葉の意味を知ってる?」

「なに?解らない」

「昔の日本人、100年ぐらい前の人が『I LOVE YOU』を『月が綺麗ですね』と翻訳したんだよ。だから『月が綺麗ですね』ってね」

ダンナ様は私を見つめて微笑む。

「うん。解った」

私は普通に応えた。

前はこの言葉に深い意味も見ず、興味も無かった。今は違う。ネットで調べた。意味も理解できた。「I LOVE YOU」と直接言い出せないダンナ様。その心の優しさにもっと真剣に応えたい。私も手を握り返す。ダンナ様の目を見て私も微笑む。今なら応えたい……、ダンナ様の優しい心に応えたい。でもしなかった。涙が溢れて嗚咽が漏れそう。私はベッドへ走り頭から布団を被る。出来ていたらと、思うと涙が止まらない。なぜ出来なかったのか?後悔の念が募る…、後悔……。

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