第4話 お見合い

「オイ」

「アン?」

「マヤのやつは?」

「夕方から用事だってさ」

「何か黒いパーカー着て出ていたし」

「そんな色の見たこと無いな。まあ、いいか、歩合制だし」

「そうそう。逃げても行くトコないし」


2年前、ここで初めて優しかったダンナ様に会った。お見合い。一宮の駅近くの喫茶店。同じ時間。今回は一緒に座った席も空いていた。コーラとアイスティーを頼んだ。店員は不思議そうにしたけど、持って来てくれた。私はコーラ。ダンナ様はアイスティー。

ダンナ様と会った印象は温和で優しそうな人。

ダンナ様と挨拶を交わした印象は礼儀正しく物静かで人。

ダンナ様と少しお話をした印象は無口で誠実で少し頼りなさげで押しに弱そうな人。

大丈夫と思った。ダンナ様なら私の全部を理解してくれる。私には目的が有る。ダンナ様なら何とかなるかも……。心の何処かで考えてしまった。間違いの出発点。

「僕は傷つく心を持った人間です」ダンナ様が唯一私に怒りを表した時の言葉。私も怒ってそんな事は当たり前だと聞き流した。間違いだった。既にダンナ様の心を切り裂き、折ってしまった後。

もし、私に『傷つく心を持った人間』と初めからダンナ様のことを想えていたら大切な人を喪わずにすんだ。でも、喪った……、ここが私の罪の原点。泣きたいけど、泣かない。ここでは泣かない。私の罪………。

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