第3話 仕事②

「マヤちゃん、御指名」(マヤ、じゃない)

「またマヤなの?」(マヤ、じゃない)

「マヤです」(マヤ、ジャナイ)

「マヤちゃん、今日もよろしくね」(マヤ、じゃない)

「マヤちゃん、ありがとうね。またよろしくね」(マヤじゃない)


私の名前はユエ。でも、この呼び方は優しかったダンナ様以外に呼んで欲しく無い。こんな事をしてるから偽名や通称は普通。ほとんど気にならない。こんな事………、ダンナ様の大切なモノに触れた事が無い。一度も見た事が無い。肌すら知らない。一度も一緒に寝た事が無い。一度も。前はそれでよかった。でも、今は違う。なぜだろう。なぜ……。


なんとなくそろそろ寝ようという雰囲気になる。ダンナ様が私のベッドに近くに。ベッドに腰掛ける。

「ユエ…」

「なに?」

スマホから視線を向ける。真剣な眼差しが視界に。

「今日はいい?」

「ダメ、気分が悪い」

スマホに視線を向ける。私の頬に触れる手。親指が唇に触れる。

「ここもダメ?」

「ダメ」

「………………」

私は完全にスマホへ視界を移す。ダンナ様はとても、寂しげな表情。私は見ないふりをする。耳元で「おやすみ、ユエ」ダンナ様が優しく囁く。優しく微笑んで。「おやすみなさい」と後ろ姿に言う。ダンナ様はそのまま行ってしまった。前はこれでよかった。この男とセックスするのが目的で無い。私には別に目的が有る。それが優先。それにダンナ様の方が異常と思ってた。後に違うと解ったけど、遅かった。なぜ、一緒に寝なかったのだろう……。キスさえしなかった。一度でもしていれば今とは違っていた。拒む度に優しいダンナ様が傷つくことに気付かなかった。今更解っても遅い。今ただただ後悔している…、後悔……。

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