第10話 鬼の王
※シオン視点
私に向かってくるオーガに、一直線に走り出す。気合いをたぎらせて剣を構える。
「"剛刃"」
構えた騎士剣が一瞬光を帯びる。【剣術】スキルで最初に覚えるアーツがこれなのですが、使うと剣の切れ味が驚くほどに上がります。これで非力な私でもまともに戦うことができます。
向かってくるオーガを強化した剣で切りつける。オーガは持っている棍棒でガードしようとしますが、それは悪手です。
「"ソードバースト"!」
強い輝きを放った剣が、オーガの持つ棍棒をいとも容易く両断します。そのまま本体を切りつけようとしますが、後ろに飛んで躱されてしまう。もう少しだったのに。
「ガァァ!」
怒り狂ったオーガがめちゃくちゃに腕を振り回してくる。
「くっ……近づけない!」
どうにか隙を探そうとするが、オーガの苛烈な攻めに付け入る隙が見つからない。早く倒さないといけないのに、時間をかければかけるほど先輩たちに迷惑をかけてしまう。
「新米! 後ろだ!」
先輩騎士の1人から声が飛ぶ。慌てて後ろを見ると、そこには棍棒を振り上げているオーガ。
「グアア!」
突然やってきた命の危機に、ゾクゾクっと私の背中を悪寒が駆け巡り、全身がこわばってしまった。
「(怖い、怖い! 避けないと! 早く動け!)」
固まってしまった私に無情にも振り下ろされる棍棒。私は思わず目をつぶってしまう。
「セツ」
「おう」
ガチィンと私の前後からすごい音がした。恐る恐る目を開けるとそこにはエドリックさんとセツナさん。どうして……?
「聖騎士の力、くらえや鬼ども! "ホーリーバースト"ぉ!」
騎士剣から光がほとばしり、その一振りで前方に光の波動が発生する。それに飲み込まれたオーガは一瞬にして消し飛んでしまった。
「ふん」
エドリックさんは騎士剣のたった一撃でオーガの首を飛ばしてしまっていた。スキルも使っていないただの剣撃で……
「ふう〜、終わったかあ。怪我してるやついるか?」
「いいえ、全員無事です」
リオルさんが全員の無事を確認する。周りを見ると、もうすでに戦いは終わっていた。30体ほどもいたオーガが全て倒されている。
「わたし、は……」
何もできなかった。オーガの一体も倒せず、あまつさえ自分と同じ新人騎士に助けられてしまった。単なる足手まとい。活躍どころの話ではない。
「おい、イノシシ娘」
「な、なにを……」
エドリックさんが呆れた目で私を見る。でも、当然だ。エドリックさんが簡単に倒せる魔物相手に何もできなかった。それに、彼には二度も助けられてしまった。私は情けないところを見せてばかりで、いいところはひとつもない……。
「何1人で突っ走ってる。俺たち2人、いや先輩たちもいるってこと忘れてないか?」
「え?」
「いやマジで自覚ないのか? 魔物相手に正々堂々一対一なんて考えてるんじゃないだろうな」
「あ……」
「いやいや、マジか」
確かに、仲間を頼るという選択は全く頭になかった。どうにか活躍して、爪痕を残そうと必死で……。
「でも私、勝てると思って……」
「勝てる勝てないはどうでもいいだろ。この場でどうするのが最善かを考えないとな」
「おっと〜そんくらいにしときなよエドリン。ていうか俺より先輩らしいこと言うのやめて。俺の威厳無くなっちゃうから」
「エドリンはやめてくださいリオルさん……」
「でも、エドリンの言ってることは正しいよシオンちゃん。キミはまだ新人なんだから、俺らの後くっついてるくらいでちょうどいいのさ」
「でも、エドリックさんやセツナさんは一人でオーガを倒してます」
「あ、こいつらのせいかシオンちゃんがこうなったのは。馬鹿二人は気にしない気にしない。キミはキミのペースでいきましょ〜」
呑気な声で言うリオルさんに、少し気分が落ち着く。私、焦ってた? 同期2人が優秀だから?
「馬鹿に囲まれてるからわかんないんだろうけど、キミも十分優秀だからね? 討伐任務に選ばれるってだけで、同期の中じゃ抜きん出てる」
真面目な顔で話すリオルさんは珍しい。
「というより、特級と一級のバディに選ばれる時点でって言うべきかな。ま〜なんにせよ、焦らないでいいのさ。キミはキミだけの道を行けばいい。別に2人に勝とうとしないでいいんだよ」
「そう、ですか。そうかもしれません」
エドリックさんとセツナさんの2人は特別だ。追いかけようとしても追いつかない。
「私だけの……道」
「さ、そろそろ用意も終わったかな? 皆、一度街に戻る! 群れの規模が未知数だ。少人数を残して調査を優先する」
私も荷物を抱え直す。今回は上手くいかなかった。でも、もし次があったら今度こそ頑張ろう。いや、活躍したいだなんて思うのではなく、ちゃんと周りを見てだ。密かに決意する。
騎士団が撤退を開始し始めた時、突然声が響いた。
「こんにちは。騎士の皆さん。一体そんな大人数でどこに行くのですか?」
低く、だが紳士的な声。ここが森の中でなければ、それは貴族の声だと思っただろう。
だけれど、それはあまりにこの場にはそぐわない。違和感。
「誰だ!」
リオルさんが叫び、前方に向かって剣を突きつける。前から歩いてくるのは、1人の男。毛皮の服を全身に身に纏い、荒削りの宝石を首や腕にジャラジャラとぶら下げている。一瞬人間かと思ったけれど、頭から突き出た一本の角がその可能性を否定する。
「私ですか? 私は王。鬼の王です」
鬼の王を名乗る男は、そう言ってやわらかく微笑んだ。
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