第9話 東の森にて

 ※シオン視点


「やるぞ、やるぞ、やるぞ……よし」


 ぺしぺしとほっぺたを叩き気合いをいれる。今日は討伐任務の開始日。今から東の森に行くところです。


「シオン、気合い入ってんなあ。そんなに楽しみか?」


 ニヤニヤとこちらを小馬鹿にするような目で見てくるセツナさん。正直この人はあまり好きではありません。いつもおちゃらけていて騎士としての自覚が足りないのです。

 それなのにこの人は1級の【聖騎士】のスキルを授けられた選ばれしものというのですから驚きです。


「楽しみなわけではありません。今日は討伐任務ですよ? 先輩方に迷惑をかけないように気合いを入れているのです」


 今回は単なる荷物持ちとして呼ばれただけですが、もしかしたら戦闘にも参加することになるかもしれません。その時に、この前のようなヘマはやれません。


「あんまり気張らないほうがいいぞ。緊張してると周りが見えなくなるからな」


 エドリックさんがそう言う。この人への感情は……少し複雑です。そんなにやる気があるようにも見えないのに、どんな仕事もそつなくこなしてしまう。頼りになる人だけれど、その優秀さにどうしても嫉妬してしまう。

【竜化】という規格外のスキルを授かっているということも、彼は特別なんだなと感じずにはいられません。


「わかっています。さあ、無駄口を叩いてないで私たちの使命を全うしましょう」


 背中に背負ったリュックを軽く背負い直し、スタスタと討伐隊の後ろをついていく。口調がトゲトゲしくなってしまうのは何故だろう。


「今はそんなこと考えてる場合じゃない。集中しないと」


 私たちは森の中に入って行く。通報によると、この森にはオーガの群れがいるらしい。その数およそ10体。


 オーガは基本的には群れることはありません。一体でも3級の魔物に区分されており、一対一では手練れの冒険者でも苦戦することもあるそうです。


 私も一対一ならオーガに勝てると思います。私の持つ3級のスキル【剣術】は、筋力の弱い私にも相当な力を与えてくれます。


 だからもし戦闘に加わることになっても、それなりの結果は残せるはずです。


「う〜ん、特別変わった様子はねえなあ〜」


 先頭を歩くリオルさんが言う。彼が20人いる討伐隊の中でのリーダーです。


「もう少し奥の方かもなあ。お前ら、気ぃ抜くなよ」


「「はい」」


 さらに奥に進んでいきます。でも、オーガは一体も見つからない。


「おかしい」


 リオルさんが言う。


「え?」


「おかしくねえ? なんで魔物一体出ねえんだって話。オーガがいないのはまあいいとして、ゴブリンとかオークにまで出会えねえってどういうことよ」


 たしかに。これだけ歩いていれば何かしらの魔物には出会うはず。それなのに、今まで

 一体の魔物も発見できていないというのは気になる。


「どうも嫌な予感がすんだよね〜。オーガ10体くらいの群れだって聞いてたけど、嘘っぽいじゃん。明らかに異変だってこれ」


「隊長、どうします」


「今回は調査に徹しましょー。なるべく接敵は避けて、この森の実態を調べることにする」


 するとその時、近くの茂みから一斉に、ガサガサと揺れる音が聞こえてくる。


「っ! 全員、構えろ!」


 リオルさんが叫ぶ。同時に、茂みからいくつもの大きな影が現れる。


「オーガ! ……何体いるんだ!?」


 その数は10どころではない。確実に私たち騎士の人数を超え、30体はいそうだ。1人一体以上のオーガを討伐しなければならない。


「待ち伏せされてたのか? こいつらにそんな知恵があるはずないだろうに」


 エドリックさんが冷静に言う。たしかに、オーガがこんな行動するなんて聞いたことがない。


「新人ども、出番だぞ〜。荷物は置いとけ」


 リオルさんに促され、私たち3人は剣を抜く。


「良かったなセツナ、ついに戦えるぞ」


「俺は戦闘狂じゃあねえって! まあ、いよいよってやつだな」


 セツナさんはそう言って不敵に笑っている。この人が戦闘狂じゃないのなら、手をガチガチに震わせている私は一体なんなんでしょう。


「シオン、大丈夫か?」


 エドリックさんが私に声をかけてくる。何故この人はこんなに落ち着いているのでしょう。私と同じ新人騎士のくせに。


「大丈夫です。やりましょう!」


 震える手を無理矢理に押さえつけ、剣を握る手に力を入れる。私に向かってくるオーガは1体。私1人でも十分戦えるはず!


 オーガとの闘いが始まった。

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