第8話 討伐任務

 強盗犯を捕まえた後、3つ隣の通りで迷子になっていたセツナと合流した俺たちは、騎士団本部の庁舎に戻ってきていた。強盗犯の身柄も引き渡し済みである。

 ちなみに王都にあるのが騎士団本部で、各領ごとに支部がある。この辺からだとモストボル支部やブラトブラ支部が近いかな。


「まったくお前ら薄情だよなあ。シオンはさっさと行っちまうし、後ろ見たらエドもいないしよ。お前らが迷子になったと思ってしばらく探してたんだからな?」


「何言ってんだか。いつもの方向音痴発揮しただけだろ? 俺らがセツナを見つけなかったら今でも裏通りうろついてたろきっと」


「俺は方向音痴じゃねえ!」


「本当にお二人は仲がいいですね……」


 呆れた顔でいうシオン。

 ふと前を見ると、ひとりの騎士が近づいてくる。軽くウェーブがかった、真っ赤な髪の色をした男だ。騎士の制服である騎士鎧を着崩しており、腰にあるはずの騎士剣は装備されていない。それは忘れたわけではなく、いつもそうなのだということを俺は知っている。あの人は、先輩のリオルさんだ。


「い〜いところにいたなあ、新人くんたち」


 この人、見た目が圧倒的にチャラい。着崩した騎士鎧からは真っ赤なインナーがチラ見しており、首にはシルバーが下がっている。というか鎧を着崩すって逆に難しくないか?

 なんだか間延びした話し方をするのも特徴だ。ただ、長身細身のイケメンという属性が全てを帳消しにしている。


「リオルさん。お疲れ様です」


 右手を軽く胸にあて、挨拶する。セツナとシオンもそれに続く。


「新人くんたち頑張ってんじゃん。もう1人挙げたみたいだし? いや〜優秀優秀」


 にこやかに笑うリオルさん。全く悪い人ではない。


「ありがとうございます」


「うんうん。あ、それでさちょ〜っと頼みたいことがあんだけど」


 両手を閉じてウインクしながら言うリオルさん。そんな頼み方する人いるんだ……


「なんでしょう?」


「東の森でオーガが複数発生してるって通報があってさ、オレらに討伐依頼が来たんだけどちょ〜っと人手が足らんわけ」


 心当たりがある話だな。


「それでさ、キミら討伐隊入ってくんない? ああ、荷物持ちとしてだからそんなに身構えなくてだいじょぶよん」


「「入ります!」」


「まあこれもいい経験だと思って……はん?」


「俺、討伐隊入ります!」


「私もです! きっとお役にたってみせます」


 目を輝かせて即答する2人。セツナはまあわかるけど、シオンってそんなキャラだったのか……?


「お〜やる気みなぎってんね。普通新人て怖がるんだけどね、討伐任務。いいねいいね〜そこの黒髪の子、エドリックだっけ、はどうする?」


 まあ、断る理由はないよな。討伐任務をこなせるようになれば、給料もはずむし。

 それに、早く一人前の騎士になりたいという思いは誰にも負けないのだ。これでも。


「入ります」


「おっし、決まり決まり〜! んじゃ、出発は3日後の朝ね。しばらく帰れない可能性もあるから十分準備しとけよ〜? あったほうがいいものとか後でリスト渡すわ、いちおー。あ、だから前日は休日ってことで。オレから言っとくわ」


 ビシッとウインクし、颯爽とその場を後にするリオルさん。


「くうう〜! やったぜ! 意外と早かったなあ討伐任務!」


「お前は多分戦いたいだけなんだろうなあ……」


「人聞きの悪いこと言うなよ。まあ、楽しみなのは事実だけどな。それより俺はシオンがめちゃくちゃ乗り気なのが不思議なんだが……」


「それは俺も思った。お前も戦闘狂だったのかシオン?」


 冗談めいて質問する。


「そんなわけないですよ。まったく、いいですか? 騎士のお役目は人々をあらゆる脅威から守ることです。騎士として早く出世すればそれだけ多くの人たちを守れると私は考えます。討伐任務の指揮や市井の治安に関する条例などに意見する権限を貰えますからね。……新人騎士を討伐任務に加えてもらえるなんて貴重なことですから、その機会をふいにするなんて大きな損失です。私にとっても人々にとっても。重要な任務につき、功績を挙げ、早く出世することが多くの人々を守ることにつながる。だから私は討伐任務を受けたんです!」


「めっちゃ早口でめっちゃ喋るじゃん……」


 何この子。こんなに生き急いでどこに行くというのか。まあ、言いたいことはわからないでもないけどね。


「ほえー、いろいろ考えてんだなあ。まあ、俺たちまた一緒に頑張ろうぜ! あー楽しみだなあ」


 こいつは何も考えていないような気さえする。


「楽しみっていうのは同意見だな。やっぱり騎士の仕事って感じでやりがいがあるし」


 ふと窓の外を見る。澄み渡った青空だ。何もかも上手くいきそうな晴れ晴れとした空。

 この時の俺は知らなかった。いや、俺だけじゃなく、知っている人はいなかったかもしれない。東の森で今、何が起きているのか。


 **********


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 PVが増えていくのを見ると幸せです。本当にありがとうございます。


短編ですが恋愛もの書いたのでぜひ読んでみてください。

「無表情の彼が私だけに見せる顔」

https://kakuyomu.jp/works/16816452219435465524

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