第7話 騎士のお仕事 後半

 シオンは犯人を探し出そうと裏通りを走っていたが、それらしい人は見つからなかった。


「逃げ足は速いようですね。こんなことなら犯人の特徴を聞いておけば……いえ」


 強盗事件というのは現行犯でなければ捕まえるのが難しい。犯人が証拠を隠せばいくらでもしらばっくれてしまえるからだ。

 だからさっき一目散に駆け出したのは悪い選択ではなかったはずだ。とシオンは考える。

 ふと、裏通りを歩く人が目に入る。頬に傷のある男性。


「あの、こっちの方に怪しい男が走ってきませんでしたか?」


「ん? ああ、見てないなあ。逆方向じゃないかな、こっちには誰も来なかったから」


「そうですか……ありがとうございました」


「ああ、じゃあな」


 踵を返し、来た道を戻ろうとしてふと気づく。男の息遣いが少しだけ荒い。


「(おかしいですね。まるで走った後のような……)」


 男の方をもう一度振り向こうとする。瞬間、腹部に走る衝撃。


「きゃあ!」


「勘がいいなあ。だが、そのおかげであんたは痛い目見ることになるんだぜ」


 シオンはすぐ腰の騎士剣を抜こうとして、気づく。


「け、剣が!」


「これがなきゃ何もできねえもんなあ。可愛い騎士さんよ。安心しろよ、殺したりはしねえさ。ただ、お仲間にチクらねえと約束してくれるまでお話し合いをしようや」


 男は奪った剣を突きつける。


「近寄らないで!」


「つれねえなあ」


 ぐいと手を引っ張られる。剣を突きつけられていて抵抗ができない。


「言うこときけや。さもねえと」


「"竜脚"」


 ドカンと、空から何かが落ちてきた。


「な、なんだぁ!?」


「頬に傷のある男……お前だな?」


「エ、エドリックさん!? そ、その足は一体……」


 空から落ちてきたのは、エドだ。その足を鋼色の竜燐が覆っていた。エドはシオンのほうをチラリと見る。


「イノシシ娘。1人で行動するからこういうことになる」


「は、はあ!? だってあそこは追いかけるべきではないですか! なんでついてきてくれなかったんです!」


 ぷんすかとシオンが怒るが、その目の前には剣が突きつけられている。


「危ないから騒ぐな。状況を見ろ」


「おっと、動くなよ小僧。お仲間の顔に傷がついちまうぜ」


「わ、私は気にしないでください! それよりこの男を!」


「シオン、動くなよ」


 エドはそう言うと、腰の騎士剣を男に向かって思い切りぶん投げた。


「ぬおお!?」


 それをギリギリでかわす男。だが、横からは竜の足が迫っており--


「ぐはぁ!」


 エドの蹴りが男の腹を直撃し、転がりながら吹き飛ばされる。

 男の持っていたシオンの騎士剣はクルクルと回転しながら舞い上がり、落下しエドの手の中に収まった。


「現行犯逮捕だ。大人しくお縄につくんだな」


 男はすでに気絶していた。それを見たエドはほっと一息つく。


「怪我はないか?」


「え、えと、ありがとうございます。情けないところをお見せして、ごめんなさい…」


「まあいいが、これからは俺たちから勝手に離れないようにな。こうならないために3人で一班なんだから」


「だからそれはあなたたちがついてこなかったからで……。いや、そうですね。ごめんなさい」


「やけにしおらしくなったな。さて、あいつを縛っちまうか」


 手錠を取り出し、男にかける。この手錠は魔法が込められた【魔道具】であり、これをかけられるとスキルの発動ができなくなるのだ。


「ところで、セツはいないのか? シオンと一緒に走っていったんだけど」


 エドがシオンをすぐに追いかけなかったのは、セツナがついていれば大丈夫と思ったからというのもある。

 だが、シオンを追いかけて行ったはずのセツナがどこにもいない。


「いえ、ついてきてませんでしたよ。ほんとに追いかけてきてたんですか?」


「ああー。そっかそっか」


「はい?」


 エドは何かに納得したようにうなづいた後、苦笑いを浮かべる。


「あいつ、方向音痴なんだよな……」


 友の数少ない欠点を思い出して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る