第6話 騎士のお仕事 前編

 スキルを授かってから半年が経ち、騎士任命の式が行われた。新人の騎士たちが王城に集まり、王に剣を捧げるのだ。


「今日、新たに15名の者たちがこの王国の剣となった」


 王が語り出す。


「そなたらは厳しい試験を乗り越えてここまで残った精鋭たちである。だが、騎士としてはまだ幼い」


 そう、騎士を志す者は多い。その中からたった15名しか残らないのだ。競争率は半端じゃない。まあ、俺は裏口就職みたいなものだが……


「謙虚さを忘れず、日々精進せよ。その剣にかけて」


「「はっ」」


 その後も式は滞りなく終わった。ちなみに、新人騎士の中にはセツナの姿もある。正直受かったと聞いた時はホッとした。目が合うとサムズアップしてきた。ほんとに元気なやつである。


 __________


 新人騎士の主な任務は、王都の巡回だ、街に異変がないか、また事件が起きた時の対処など職務内容は多岐にわたる。


「巡回って言っても、そんな事件ばっかりあるわけじゃないしなあ」


 呟く。


「騎士って暇なんだなあ。もっとハラハラドキドキの職業かと思ってたぜ」


 隣を歩くのはセツナだ。新人騎士は3人一組で分けられ、巡回の任務についている。


「私たちが暇ということは、それだけ平和な証拠です。喜ばしいじゃないですか」


 この子が俺たちの班の3人目。栗色の髪は肩のあたりで切りそろえられ、どちらかというと小柄な女性。幼い顔立ちをしているが、黒縁の眼鏡をかけていて真面目っ子の印象を強くしている。

 彼女の名前はシオン。ガチガチの真面目優等生だ。


「そうだけどさあ。あー、討伐任務とか早く行きてえなあ」


「新人にはなかなか任せられないだろ。セツナ、そんなに戦闘狂だったか?」


「騎士やってる! って実感が欲しいんだよ、俺は」


「騎士はこの王国の民を守るための立派な職業です。道楽気分はいけませんよ」


 セツナが露骨に嫌な顔してる。この2人、絶妙に相性悪いみたいだなあ。セツナのおちゃらけにいちいちツッコミ入れてたら話ができないぞ。


「泥棒だ! 誰か捕まえてくれ!」


 その時、前の方で誰かの叫び声が聞こえる。


「あれは! みなさん、いきましょう!」


 声の主の方に行くと、金持ちそうな男が尻餅をついてわなわなと震えていた。


「犯人はどっちに行きましたか!」


「あっちだ!」


「わかりました! ぜったい逃しません!」


 男が指差す方向に一目散に向かうシオン。


「おい、勝手に行くなって! 王都は入り組んでんだから、はぐれるだろが!」


 それに続いて駆け出すセツナ。いや、お前も勝手に行くなし……

 こういう時はまず、犯人の特徴と取られたものを聞き込みしとかないとどいつが犯人かわからないでしょうが!


「お怪我はありませんか?」


「あ、ああ。こっちはいいからお前も早く追いかけろ!」


 少しイラつくが、顔に出しちゃダメだ。


「犯人の特徴は何かありますか? それと、盗られたものを教えていただきたい」


 はっとする男。動転しててそこまで考えが及ばなかったんだろう。


「真っ黒なローブを被ってたが、頬に大きな傷があった! 盗られたのは私の財布だ! 宝石が散りばめられている特注品なのだ」


「なるほど、わかりました。必ず取り戻すので、少しお待ちください」


「頼んだぞ! あんたの仲間の馬鹿者どもにも伝えておいてくれ!」


 苦笑しかできない。ほんとにあのイノシシたちはまったく……


「さて」


 俺はすっかり見失ってしまった仲間たちのことを一旦忘れ、犯人を探すことにした。

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