真夏の邂逅(後半)
「なんじゃこりゃあぁ!?」
もう使い古されているであろう、コッテコテなリアクションが勝手に私から飛び出した。
――お盆が過ぎながらも、真夏の強い日差しに照らし出されていた、客室の忘れ物。
それは――
オムツだった。
使用済みの成人用オムツだったのだ。
そいつはベッドルームの椅子に、脱いだ形のまま放置されていた。いわゆる形状記憶を保っていた。
部屋全体が黒っぽく統一されているだけに、その白さはきわだって見えた。
幸いというか、オシッコをしたような跡はあるものの、ウンコの存在は見つけられなかった。
通常のオムツのように、小さく丸めて捨てていてくれたらスタッフとしてはありがたかったのだが、スマートフォンで記念撮影でもして、満足して帰っていったのだろうか、そいつは「ここにいるよー」と言わんばかりにボロくなってほつれが出だしたビニールレザーの椅子に鎮座していた。
(ふうむ、赤ちゃんプレイでもしていたのかな。現代日本において、勤め先の企業で疲れている上役の男が、商売の女に甘える話は少なからず聞くから。
しかし成人用オムツなんて普通はバラで売っていないだろ。ということは、お客の男の方がオムツのストックを持っていそうだな)
こんな時でものんきに生まれ持った推理力・考察力を働かせてしまうのが、私の悪い癖である。
しかし思考時間は10秒にもおよばなかった。私は使用済みオムツを、コンドームを扱うのと同じように素手でつまむと、サッとゴミ袋に入れてさよならした。
ここで排泄物特有の悪臭がしていたら、一時間ほど換気して客室をひとつ売り物にできなくなってしまうところだったが、鼻の利く方である私にそのようなにおいは感知できなかったので、いつものように仕上げのベッドメイクまで終わらせた部屋全体に消臭剤を振りまいてから、「清掃完了」と玄関ドアそばのそなえつけスイッチを押した。
そんなわけで、「真夏の邂逅」使用済み成人用オムツの事件はあっけなく幕を閉じた。
濡れたバスルームでコンビニ弁当やポテト菓子を食べたあとが散乱していた部屋に当たった時が、清掃に手間取って殺意が湧いたものだが、これはまた別の話だ。
真夏の邂逅 あい @rokuane
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