4.


澄み渡った雲を抜けると、主人公はふわふわとよろめきながら、雲の天井に足をつける。


主人公の顔に差した光が揺らめくように屈折している。


左頬に芽吹いた目は少し眩しそうだ。


「すやすやすやすや……」


「シオリ、何故お前がここに居る」


シオリは黒い棘をこまめに動かしながら、眠そうに起きる。


「むにゃむにゃむにゃむにゃ、ああ……おはよう主人公」


「ひさしぶりだねえ」


「もう一度聞くが、お前は本当に失敗作を生んでいないんだな?」


「どうなのかな?解らなくなってきたよ」


シオリが主人公に飛び掛かると主人公は棘を上手く掴んで受け止めた。


「どういう意味だ」


「何故君がここに居るのか考えてみてくれないかい?」


動く度に小さな気泡がひらひらとシオリの棘の隙間に吸い込まれていく。


「読み手が俺をこの場所へと辿り着かせた」


「読み手と言ったか、君は結末からこの物語を進めているね?」


主人公は振り返って、頬の目で貴方を睨むような素振りを見せる。


「俺は結末から物語を辿っているのか?」


「そうとしか言いようがないね」


「だとしたら失敗作を生んだ親は一体どこに居たんだ?」


「……君はここまでで誰を生き返らせたのか覚えているかい?」


「2人だ、お前と8の地点に居た人間の少年」


「ならその2人の内のどちらかだろうね、最初に生き返った奴が最後の敵対者かもしれない」


主人公はゆっくりとシオリを雲の天井へとおろした。


「再び元の地点へと戻るにはどうすればいい?」


シオリは黒い棘を素早く組み替える。


「不可能と私は考えるよ、巻き戻した所で私達は同じ順序を辿るだけだ」



「なら前に進み続けるしかないな」


「やめるんだ主人公、終わりから始まりへと辿っていると言う事は、行きつく先はこの世界が始まる前の虚空だ」


「俺はそうは思わない」


主人公は雲の天井を見下ろすと、ゆっくりと上へ上へと舞いあがるように浮いていく。


「待て、主人公!無意味な事をするな!」


虚空の海の果てに浮かぶ頭上の月に向かって主人公は浮かびつづけた。

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