第3話 出会い
それはひどくジメジメした6月の最後の日だった。
「東野美保奈さん、よね?」
問いかける少女の、艶めく唇。
「そう、ですが…」
クラスでも一番地味で、陰気な少女に訪れた突然の華やいだ出来事。
「ずっと、探してたの」
確信に満ちた少女の声。
学校中の噂になっている美人転校生が目の前に立っているという事実。
そしてそれが、昔から自分が待っていたであろう人物だということを美保奈は瞬時に悟っていた。
「……人違い、じゃないですか?」
きっとそんなことはないと本能で感じ取りながらも問いかける。
「…何故そう思うの?」
「あなたみたいに華やかな人が、こんな私みたいな人間と関係があるようには思えないので」
美保奈の言葉に、少女は破顔した。
「なんだか随分冷静なのね、東野美保奈さん」
何がおかしいのか分からないまま、美保奈は少女の笑いが治まるのを待つ。
「色白で病弱、友達はいなくてクラスでも変わり者と呼ばれている。休み時間はいつも本を読んでいて、成績はトップクラス。そういう噂を聞いてきたんだけど」
すらすらと読み上げる間も、その表情から笑みは消えない。
「概ね合ってると思います」
「概ね、とは?」
「クラスメイトたちが私をどう呼んでいるのかは、私自身が与り知らないところでの情報なので」
「ふふ、やっぱりあなたおもしろい」
少女は始終上機嫌のようだった。
「放課後に会いましょう。屋上にいるわ」
「…どうして?」
「さあ、どうしてかしらね」
ふわりと微笑んで、少女はくるりと振り向いた。柔らかな髪が揺れる。
少女が教室を出て行ったあとも、その残像が残っているかのようだった。
鮮やかな存在感。華やいだ空気。
突然の出来事に、まだ気持ちがついていかない。
ただ、ついに自分は殺されるのだ、という安堵だけが美保奈の心を占めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます