禁制品
「それで?」刑事は、厳しい口調で言った。「いったい、いつからやってたんだ?」
「はい──子どもの頃から……」容疑者は、小さな声で言った。「その、両親も、中毒者だったもんで……」
「あきれたな! 筋金入りってか」刑事は朱唇を歪めた。「よくも今日の今日まで逮捕されずに済んできたもんだな」
「はあ──まあ、その、麻薬や覚醒剤じゃありませんから……禁断症状とかはないんですよ。刑事さんも知ってるでしょう。だから、やらずにおこうと思えば、ずいぶん我慢できるんで……ぼかあ、だいたい数ヶ月から半年に一回くらいの割でやってたもんで、バレにくかったんです。だいたい、頻繁にやってたんじゃ、カネが続かんですし……それに、それくらい間隔を開ければ、口臭や体臭の問題も抑えられますんでね」
「いやはや、だな」刑事は血のように赤い瞳をくるりと回してみせた。肩をすくめる。「ま、節制というのは大事だよな。お前のお仲間にも教えてやったらよかったんじゃないか?」
「でも──仕方ないじゃないですか。あんたがたがやってくるまで、アレは違法じゃなかったんですよ。ぼくらにとっては、ごく普通の食べ物で……みんな、昔を懐かしがっているだけなんです。昔のように、アレを楽しみたいってだけ……」
「お前らにとってはな」刑事は、鋭い牙を剥き出しにして、唸るように言った。「だが、我々からすれば、とんでもない劇物なんだ! アレを食ったあとのお前らの口臭だって恐ろしい。あの臭いを嗅がされるくらいなら、心臓に杭をぶち込まれる方がマシってもんだ!」
そこで、すっかり相手が縮み上がっているのに気づいて、刑事はばつの悪そうな顔になった。しまった、やりすぎた……と思っても、もう遅い。部屋の隅に立っている、耳の尖った小柄な老弁護士が、非難がましい視線を投げかけてくる。つい感情的になってしまった……と、刑事はちょっとばかり反省した。こりゃ、後であれこれ難癖つけられるぞ。
「──まあいい。質問を続けるぞ。あのニンニク料理専門店を知ったのはいつ頃だ……」
異世界との超空間ゲートが開き、様々な超常存在が溢れかえるようになってから、何十年か過ぎた頃の、地球の片隅での一コマである。
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