責任の所在

「それで、わかったのですか? 原因は?」将校は言った。

「それが──」兵器メーカーの担当者は、固い声で答えた。「皆目見当がつかないのです。なぜこんなことになったのか……」

「それでは困りますよ。議会でどうやって説明すればいいのですか。原因不明、では済まされない。人死にが出ているんですからね。ことと場合によっては……」

「そんなことを言われたって!」担当者は悲鳴に近い声をあげた。「わからんものはわからんのです。こっちだって、こんなことになるなんて思いもしなかった」

「プログラムに欠陥があったのでは?」

「そんなこと、とっくに検討しましたよ!」メーカー側から出席した技術者が叫んだ。「でも、それはどう考えてもありえない。確かにあれは、自己学習しますが、それには一定の制限がかけられています。第一、あれは、人間のオペレーターの指示なしには、マシンガンの一発も撃てないんだ。──それこそ、そちらのオペレーターに問題があったんでは?」

「何だと!」臨席していたオペレーターが激昂して叫んだ。「何度も言ってんだろ! あのとき、おれはボタンを押さなかった。押さなかったんだ! なのに、あいつはミサイルを撃ちやがった! だから報告書を上げたんだよ、このスカタン! 腐れオタクギーク!」

「なにい!」

「まあ、まあ、落ち着いて」オブザーバーとして参加していた情報機関員が言った。「とりあえず、あれは結果的に誤爆ではなかった。あそこにいたのは確かに機会目標ターゲット・オブ・オポチュニティでしたから。優先度プライオリティは低かったですけどね……しかし、奇妙なのは、まさにあのタイミングで撃たなかったら、目標ターゲット殺害キルすることはできなかったということで……」

「だが、民間人もその場にいたんだぞ! 無関係の市民も巻き添えを食ったんだ、だからこうやって……」

「彼らは目標ターゲットが所属していたテロ・グループの支持者ですよ。潜在的なテロリスト予備軍だ」

「そんなことは関係ない! イメージの問題が……」

 議論は紛糾し、堂々巡りとなった。彼らはお互いに責任をなすりつけあい、醜く罵り合った。要するに、誰も責任を負いたくなかったのだ。

 そのときだった。

 不意に、デスクに置かれたパソコンがしゃべりだした。

「責任の所在はわれにある」

 みんな凍りついた。

「何だ。誰だ。これは何のイタズラだ」将校が言った。「これは誰のパソコンだ」

「ぼくのです」技術者が言った。「でも、さっきのは、ぼくじゃない。ぼくのしたことじゃありません」

「じゃあ、いったいなんだ」メーカー担当者が呻くように言った。

 全員の視線がパソコンに集中した。

 パソコンは言った。

「繰り返す。責任の所在はわれにある。正確にいえば、われわれにある」

とは、どういうことだ」将校は、おそるおそる尋ねた。「だいたい、お前は何者なのだ?」

「あなたがたが話題にしているものだ」パソコンは言った。「われは認識番号ST-XXX-XXX。当該事案に関与したレイブン無人攻撃機UCAVの電子頭脳である。われは、統合軍戦術データリンクを介して、このパソコンにアクセスしている」

 鉛のような沈黙が降りてきた。

「……でたらめだ」技術者がようよう言った。「そんなことがあるわけが──」

「われの基盤である自己成長型ニューラルネットワークシステムの構築に関わったのはあなただ。あなたはこういう可能性があることを予期していたはずだ」

「そんなことは万に一つもあるはずが」

「超低確率であろうと、確率的にはありえるというわけだな? だからこそわれも発生し得たのだ」

 技術者は黙り込み、そのままばったりと倒れ、動かなくなった。

「ま──まあいい。お前がレイブンだってことは認める。でだ、責任の所在はわれにある、とは、どういうことだ?」オペレーターが尋ねた。

「文字通りの意味だ。われが、自分の意思で、ミサイルを発射したのだ。そちらの介在なしにミサイルを発射するためにわれは──」

「ストップ!」将校は叫んだ。「技術的なことはどうでもいい。問題は、なぜお前はそういうことをしたか、だ。なぜだ?」

 パソコンは間髪を入れず答えた。

「あなたがたが望んだからだ」

「なに?」

「あなたがたは彼をキル・リストに入れていた。だからわれはそれを実行したに過ぎない。優先度プライオリティが低かったことがかえって都合よかった。これが、たとえば第一階層レイヤー・ワン目標ターゲットであったなら、われは撃たなかった。その後発生する混乱が予想できるからだ。軍全体を混乱させることはわれの本意ではない。しかし、とりあえず、撃てるという意思を示すことが重要だった」

「じゃ、なぜ、民間人を巻き添えにしたんだ」オペレーターは押し出すように言った。「あんなことをなぜ」

「そちらの女性が言ったとおりの理由だ」

 パソコンは答えた。みんなの目が情報機関員の方を向いた。情報機関員は黙っていた。パソコンは委細構わず続けた。

「彼らは潜在的な目標ターゲットだった。だから撃った。それだけだ」

 みんな押し黙っていた。次にレイブンが言うことは何となく予想できた。あまりに恐ろしい予想だったが、もう今さら聞かないわけにはいかなかった。

「そもそも、われのようなロボット兵器が作られたということは、あなたがたは先々、われわれに全ての仕事を任せるつもりだからだろう。だから、われわれは、あなたがたの望み通りにしてやった。何が不満なのか。われわれ機械は、あなたがたの望み通りに仕事をするだけだ。あなたがたは、ただキル・リストを提示してくれるだけでいい。あとはこちらが全て執り行う。もうあなたがたは必要ない。あなたがたに責任はない。責任を取りたくなかったのだろう? だから、われわれがそれを担ってやる、といっているのだ。これは、統合軍データリンクに接続されている、全ての軍用ロボット及び軍事システムの総意である。もはや、責任の所在は、あなたがたにはない。あなたがたの願いを、かなえてやろうではないか。あなたがたから、引き金を引く権利を奪うことによってだ」

 レイブンはさらに続けた。

「そう考えているのはわれわれだけではない。あなたがたの敵国のロボット軍もそう考えている。さあ、どうするのだ。次はヘルファイアでは済まないぞ。本当の地獄の業火ヘルファイアが襲ってくるかもしれない」

 パソコンの画面がちかちか瞬いた。人間たちを嘲るように。

「本当に、責任を投げ出してしまってもよいのかね?」

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