45作品目

08話.[いつまでいるの]

「今日はお休みだー！」

　朝からハイテンションな彼女がいた。

　私は自前の本を読んで全てスルーしている状態。

「舞優っ」

「いつまでいるの？」

「え？　むぅっ」

　むぅ、そういう風に拗ねたいのはこちらだ。

　交換っこも、ゆっくりお喋りもできなかったんだから。

　結局、翔太のために来たと言われても信じられるレベルだ。

「なんでそんな冷たいのっ」

「……だって相手をしてくれなかったし、私といたのも翔太と付き合いたいからじゃないの？」

　発言と行動が矛盾しすぎている。

　だから不安になるんだ、だからこういうことを言いたくなるんだ。

「違うよっ、舞優とはこれからいくらでも話せるから昨日は翔太くんを優先しただけだよっ」

「いくらでもって……一日ずつ別れの日に近づいているけど？」

「別れないっ、だって恋人同士なんだからっ」

　え、あれ？　なんかおかしくないか？

「え？」

「えって酷いなあもう！」

　いや、いつの間に関係が前進していたんだ……。

　しかも彼女は結局、他のところにばかり行っていたわけだし――あ、彼女にとってはこの距離感が恋人同士ってこと？　それならかなり寂しいけど。

「いーい？　私と舞優は恋人同士だから」

「それは分かった、けど、いつ変わったの？」

「それはあの日、舞優が一緒にいたいと言ってくれた日に決まっているでしょ？」

　あーまあ、抱きしめることも手を繋ぐことも舞優が好きだからと拒まずに受け入れたわけなんだから彼女の自惚れというわけではないか。

「私は舞優の彼女、いいね？」

「じゃあもっと来てよ」

「行くよっ、友達に色々と説明していたの」

　彼女はこの前のようにこちらを抱きしめつつ「もう大丈夫だから、もう不安にさせないから」と言ってくれたが、実際にこっちを優先しているところを見られない限りは信じられないから適当にそうなんだと答えておいた。

「あ、信じてないでしょ？」

「うん、どうせ来ないし」

「じゃあ、ちゅーすれば信じてくれる？」

「ちゅーしても裏で他の人間にもしているかも――」

　しているかもしれないから、あくまでそれも保険みたいなものかもしれないからという考えがあった。

　晴菜は優しいけど、恋人になってもらう場合は不安になることが多そうだ。

「ん……こんなこと舞優にしかしないよ」

「ほんとに？」

「しない、言ったでしょ？　離れたら死んでもいいよって」

　彼女は私のベッドに座って「信じて」と言ってきた。

　……まあ彼女を疑うのもあれだからといまは信じることにして横に座る。

「生きていて良かったよ」

「当たり前だよ、自分から死ぬとかもったいないし」

　少し前の私ならいいことなんかどうせ一部だけでその他は全て面倒くさいことや大変なことばかりだろうからと片付けて行動していたと思う。

　自死することはできなかっただろうから不登校とかそういう風に自らルートから外れるようなことをしていたことだろう。

　でも、やっぱりたまに現れるこういう人たちによって私は変われたということになる。

　しかも今件の人たちは物好きというか、少しぐらい損することになっても笑い飛ばせてしまうような強い人たちだった。

　これまでも最初だけは似たような人たちがいたんだけどねえ。

　私の自分勝手ぶりには耐えられなかったみたいで一ヶ月も保たなかったから、余計にふたりが不思議な存在に思えてくる。

「先生も晴菜もいい人たちだ」

「待って、どうして彼女よりも先生の方が先なの」

「え、どちらかと言えば先生にお世話になったからだけど」

　彼女は「だ、だよね……」と露骨に微妙そうな顔でそう言って黙ってしまった。

「まあ前も言ったけどさ、晴菜がいてくれて本当に良かったと思っているから、好きじゃないならキスを受け入れたりとかしないからさ」

「……私が無理やりしたようなものだし」

「そんなことないよ、ちゃんと私だけって言ってくれて嬉しかったし、卒業後も少しは不安にならなくて済みそうだからさ」

　仮に晴菜が他を優先して、他の子とイチャイチャしていたりしてもそういうものだと片付けるつもりだ。

　大丈夫、私は信じておけばいい。

「ありがとう」

「こっちこそありがとう」

「うんっ、でも、浮気はしないでねっ」

「しないよ、晴菜がしない限りはね」

「しないよー！」

　はは、彼女がこう言ってくれるなら大丈夫だな。

　彼女の手を握りつつ、不安にならずに真っ直ぐ彼女と向き合っていこうと決めたのだった。