第7話 贈り主

「よく、このチョコレートを無事に受け取れましたね」


 どう考えても精神状態が芳しくない人物からの贈り物である。面と向かって手渡されたとすれば、腹の一つ二つは穴が開いていそうなものだ。

 穂高は疑問へ答えるように「朝、出社した際に受付の子から貰ったんだよね。どうやらその子が出勤の道中に無理やり手渡されたみたいで、私に渡すように押し付けられたらしいよ」と説明する。


「過去にお付き合いされていた方からでしょうか」

「――あまり深く考えない方がいいと思うよ」


 言いながら、最後のハートが口の中に放り込まれる。

 内心で『よく食べれますね』と拍手を送った。


「人間は嘘を吐く生き物だからさ」

「貴方と意見が合う日が来るとは思いませんでした」

「嬉しい?」

「全く」


 思った通りの返答だったのだろう。残念がる様子も無く、穂高は黒いリボンが結ばれた箱の包装に手を掛ける。


(どうせなら死んでしまうほど甘いチョコレートを誰か用意してくれないかしら)


 などと蝶華が考えている内に、箱の中身が顔を出す。


「これは普通のチョコレートみたいだね。手紙もカードも付いていないよ」


 覗き込めば、手製の小ぶりなチョコレートが、箱の中で綺麗に並んでいる。確かに、異物が入っているようには見えない。

 残念がる蝶香を尻目に、穂高はあっという間にチョコレートを食べ終わった。

 次は、蝶華が食べる番である。


「蝶華さんはさ、僕みたいに変わった贈り物とかあんまりされ無さそうだよね」

「そうですね、そういう方とのお付き合いは行って来なかったつもりなので」

「ま、それが一番だと思うよ。出来るならね」


 テーブルに広げられた二十七の箱。穂高の指は左端、白とピンクのデザインが可愛らしい箱を指し示した。


「本人にその気が無くても、寄ってくる人間は無数にいるから」


 その言葉に、嫌な予感が胸を締め付けた。


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