第6話 赤のチョコレート
頬に掛かる髪を掻き上げ、整然と並ぶ三十九のチョコレートを吟味するように眺め見る。
(当たりを見つけるより、胃袋を落とす方が勝率は高いはず)
どの箱も概ね綺麗に包装されており、サイズも似通っている。長方形、正方形、ハート型に円形、大きい箱を選んだからといって内容量が多いとは限らず、相手の胃袋を陥落させるなら選ぶべき選択理由はそこではない。
「青と白の箱に黒いリボンが結んであるそちらと、こちらの赤い正方形のものをお願いします」
貼り付けた笑みには胡散臭い微笑みで返される。
(当たりではないでしょう。当たりを選んだ訳では無いので)
暫く二つの箱を見比べ後、赤い箱が手に取られる。掌サイズの箱はプレゼントボックス型となっており、全体的な印象から恐らく手作りであろうと予想された。中からは透明な袋に入れられた色とりどりのハートのチョコレートが姿を現す。僅かに、穂高の表情が翳る。
「手紙ですか?」
「うん、手紙みたいだね」
「確認をさせて頂いても?」
「ルールだからね…」
珍しく苦笑いを浮かべる穂高に首を傾げつつ、小さく折り畳まれた紙切れを受け取る。
「――なんと言えば良いのか、良い言葉が浮かびませんね」
内容に視線を走らせれば、蝶香は穂高が苦笑いを浮かべた理由が良く分かった。
小さな可愛らしい丸文字が隙間なくびっしりと一行につき二列ずつ並んだ便箋。読み進めたくないという嫌悪感に似た感情がひしひしと沸き起こるが、ルール上読まない訳にもいかなかった。
【拝啓 千神穂高様
こんにちは、お久しぶりです。このお手紙を出すのも一年振りですね。震える手で今この手紙を書いています。読み辛かったらごめんなさい。昨年は星のチョコを贈りましたので、今年は少し恥ずかしいですがハートにしてみました。お口に合うと嬉しいです。所で最近、穂高様がお住まいのマンションの同一階によく出入りしていらっしゃる女性がいます。名前を申し上げると恐怖心を与える気がするので控えますが、どうやらその女性は穂高様と同じ階だけではなく穂高様の部屋にまで侵入していらっしゃるようなのです。こう言っては何ですが、今のお部屋はセキュリティが不十分なのではないでしょうか。私が住んでいる場所ならもっとずっと安心できますし、なにより私がいます。愛する私と愛する貴方、そろそろ一緒になってもいいのではないでしょうか。穂高様に私の愛の重さを試されているとは理解していますが、私もそろそろ我慢の限界がきちゃいますよ? でもでも、がっかりさせたくはありませんので、まずは私と言う人間の価値を証明するべく私と言う婚約者を差し置いて穂高様の部屋に侵入するようなストーカーをまずは排除したいと思います。穂高様の安全は私が守りますから、安心して下さいね♡】
というのが便箋のまず半分に書かれ、後はここ数日の行動について称賛に値する正確さで内容が記されていた。
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