第12話 嫌な予感
ハンナは、タロウを部屋に残してきたことを不安に思っていた。しかし、今回ばかりはタロウは静かに怒っていた。憎まれ口を叩いても、主人を揶揄っても、タロウはハンナの事を第一に考えてくれている。だから例え威嚇のつもりであっても殺意を向けたことが許せなかったのだと思う。
もうタロウがイムレに危害を加えるとは考えられないが、思いっきりおちょくって、悪戯して、憂さ晴らししそうな気がするのだ。
ハンナはため息をついた。
魔物の二人を持ち場に戻るよう指示して、一人屋敷の地下室へと来ていた。
そこに、例の卵が安置されているのだ。
「この卵、本当に何なのかな……。」
卵は全く孵る様子もなく、静かにそこにあるだけ。何かの魔物の卵だろうとは思うのだが、危ないものには見えない。
ハンナは手を伸ばして、そしてタロウの言葉を思い出した。
「ハナ、決してこの卵に触れないで下さい。」
タロウが真剣に言う姿がどうしても忘れられない。伸ばした手を引っ込めて、ただただじっと卵を見つめていた。
ーー考えても仕方ないわね。
踵を返して、部屋から出ようとした時。
ハンナは不運にも足を滑らせてしまった。
崩れた体勢を何とか支えようと、思わず近くにあったものを掴んだ。しかし、掴んだものは不安定なもので、手まで滑らせてしまい、そのまま床に顔をぶつけてしまった。
ドスン!
さらに掴んでいたものがハンナの上に落ちてきた。結構な重さでハンナはカエルのようなうめき声をあげた。
まさに、踏んだり蹴ったりである。
ぶつけてしまったおでこをさすりながら、ハンナの上に落ちてきたものが何だったのか見ようと上半身を起こした。
「あ。」
何とそれはタロウから決して触るなと言われたあの卵だった。
先程までピクリとも動いていなかった卵がコツコツと音を立てている。しかもぼんやりと光っている。
ハンナは嫌な予感がした。
そして、卵は眩い光を放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます