第7話 魔物の襲来

 ハンナが部屋の中に入ると、セバスチャンに合図を送られていたメイドが待ち構えていた。

「今日は一段と汚れていますね。タオルは用意していましたが、まだまだ読みが甘かったようです。」

 と悔しそうにメイドが話しながら、ハンナの体を洗い、着替えさせていく。ハンナは申し訳なくて、メイドの文句を黙って聞きながら、されるがまま身なりを整えるのだった。

 動きやすい格好から、令嬢らしいドレス姿へ。

 髪にも泥が付いていたため、メイドによって念入りに洗われた。そして髪をおろして、艶が出るまで手入れされた。そのおかげで、ベージュ色がさらに明るくなって金色にも見えてくるほどだった。シンプルながらも品のある立派な令嬢へと変身した。

 静々と食堂へと入っていく姿は、誰がどう見ても貴族そのもので、森の中を駆け回っているようにはとても見えない。完璧な作法で席につくハンナに、タロウは朝ごはんを出してきた。

「今日のご飯はホットケーキです。」

 タロウ監修の食事はいつも美味しい。

 赤い木の実を散りばめ、とろとろのシロップをかけたパンケーキ。フォークをあてるとふわふわの生地にフォークが沈んでいく。

 少し力を入れてパンケーキを食べやすい大きさに切ると、割れ目からとろりとシロップが流れていく。流れたシロップがゆっくり、ゆっくりと色とりどりの木の実を浸していく。

 パンケーキの一切れを口の中に入れると、ほかほかの温かさに心も体も満たされていく。

 そんなパンケーキに舌鼓を打ちながら、ハンナは満面の笑みを浮かべた。

 美味しいものとはいつもすぐになくなってしまう。空っぽになった皿を見つめながら、コーヒーへと手を伸ばした。

 すると廊下の方から慌ただしい足音が聞こえてきた。

「ハンナ様!大変です!」

 汗だくになって入ってきたのは領民の一人だった。ロートヴァルト家は領民との距離が近いため、いつでも誰でも入れるよう開けっぱなしになっている。

 いつもなら採れたての野菜のお裾分けにやってくる程度なのだが、今日は全く様子が違う。

「何があったの?」

「魔物が……。」

 領民は一度息を整え、大声で叫んだ。

「魔物が攻めこんで来ました!」

「何ですって!」

 あまりに衝撃的な事件に、ハンナは立ち上がった。

 穏やかな紅の森。

 今朝だって見回りした時には穏やかで静かな雰囲気が漂っていた。魔物が襲ってくるような様子は全くなかったのだ。そうなると、紅の森の他からやってきた魔物なのか、とも思った。

 ハンナは首を横に振った。

 考えても仕方ない。

 とにかく急がなくては。

「今すぐ行くわ。魔物はどこにいるの?」

「こっちです!この屋敷に向かって来ています!」

 ハンナは領民に連れられて、急いで屋敷から飛び出して行った。

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