第5話 危険な卵

 森の出口まで来ると、そこにはタロウが来ていた。タロウはハンナの姿を見つけると、目を丸くした。

「おや。今日は帰りが早いですね。」

「タロウ!」

ハンナはタロウを見るやいなや、すぐさまタロウのもっちりボディへと抱きついた。正直、重傷の怪我人に動揺していたのだ。魔物達の前では平静を装っていたものの、パニックにならないよう必死だった。震える手を力強く握りしめて、必死に前を向いていた。

 そこにタロウが現れた。憎まれ口を叩くもののいつもそばにいて助けてくれるタロウ。そんなタロウを見てハンナは心の底から安心した。

「怪我人か?なんだありゃ?」

タロウの後ろにはピーちゃんとグリちゃんも付いてきていた。ピーちゃんは魔物達が運ぶ男性と卵を怪訝そうに睨んでいた。

「どうしたんですか?その拾い者。」

タロウはハンナの後ろから付いてくる魔物達が運んでいた男性を見て、パチクリと目を瞬かせた。

「森で倒れていたの。」

燕尾服を着ていてもタロウのもふもふはとても気持ちよかった。ハンナはタロウのもふ毛に顔を埋め、心を落ち着かせるため、何度か深呼吸する。

 少し落ち着いてから、タロウから離れてハンナは状況を説明し始めた。

「この紅の森に倒れていた?」

「そう。」

タロウは再び男性へと視線を移した。

「酷い怪我ですね。」

タロウは眉間に皺を寄せた。それから後ろに控えていたピーちゃんへと視線を移した。

「野郎なんか乗せたくねえ。」

タロウの言わんとするところを察したのか、ピーちゃんはすぐに文句を言った。しかし、タロウはにべもなく言い放った。

「つべこべ言わず早く。」

「ちっ。」

ピーちゃんはタロウの命令には逆らえず、舌打ちしながらも指示に従った。魔物達は男性を地面に下ろし、ピーちゃんから逃げる様に森の奥へと下がっていく。そしてピーちゃんは男性を俵を担ぐように持ち上げた。

 ハンナはうさぎの魔物達から卵を受け取った。

「ありがとう。ここからは私が持つよ。」

『ハンナ大丈夫?』

『コレ、ハンナ危険。持ッテイク』

「大丈夫よ。ありがとう。」

そう言って魔物達から卵を受け取った。

 するとタロウは尻尾をピンと立てた。全身の毛が逆立てて、ハンナに向かって叫んだ。

「ハナ!今すぐその卵をこちらへ。」

タロウの緊迫した様子に、ハンナは後退りした。ちらりと卵へと視線を落として、首を傾げた。

「これくらい持てるよ。」

「いけません。さあ早く。」

しかし、タロウは許さなかった。

 ハンナへと近付いて、手を差し出した。ハンナはタロウのいつもと違う様子に首を傾げながらも卵を差し出した。

「はい。」

卵を受け取ったタロウは、卵を上から下から、そして横からと眺めて、卵に耳を当てた。

「大丈夫そうですね。」

問題ないと分かると、タロウはようやくほっと一息ついた。

 普段の飄々としたタロウの様子からは想像もつかない焦った態度だった。

ーーそんなにあの卵には、何かあるのかしら。

 黒くて大きな卵。

 ハンナはその卵を、不思議そうにじっと見つめるのだった。

「さ。グリちゃんに乗ってください。早く彼を手当てしないといけません。」

「そうね。」

待ってましたとばかりに近寄ってくるグリちゃん。ハンナは優しく撫でて、グリちゃんに跨った。

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