第4話 怪我人発見

 ハンナはピーちゃんと別れた後ものんびりと紅の森を歩き回っていた。

 ハンナの傷心を気遣って魔物達がやってくる事以外は、いつもと変わらない森。魔物達だけが住む紅の森は、ハンナ以外の人間が足を踏み入れることはほとんどない。そのため、ハンナの気分転換には持ってこいの場所だった。

 ーーそう言えば昨日はこの辺りで穴に落ちちゃったんだよね。

 昨日穴に落ちた事を思い出し、ハンナは注意深く歩いた。足元をしっかり確認し、一歩一歩慎重に足を進めていく。

「ん?」

 すると、少し先に誰かが倒れているように見えた。

 ーー不運仲間?わかる。わかるよ、変なところに穴とかあるもんね。

 ハンナはうんうんと頷いて、ゆっくり倒れている人へと近付いていった。

「大丈夫ですか?」

 騎士の服を来た一人の男性だった。身長の高い若い騎士の様だ。うつ伏せになり、片腕には大きくて丸いものを抱えている。

「何これ……。卵?大きいなあ。」

 卵は両腕で抱えるくらい大きな黒い色をしていた。見たこともない卵に首を傾げながら、ゆっくりと男性の腕の中から抜き取ろうと、卵に触れた。


 カツン……。


 ハンナが卵に触れると、中から何が動いた様な音がした。驚いて思わず手を引っ込めた。しかし、その後は何も動きがなかった。気のせいかと思い、ハンナはゆっくりと卵を抜き取ったのだった。卵は、少し離れた場所に割らないよう丁寧に置いた。

 それから男性を仰向けにして、顔に付いた落ち葉や泥を払っていく。

 男性は至る所に深い傷を負っていた。特にお腹の傷は酷いものだった。

「これはいけない……っ。」

 ハンナは周囲を見渡した。そこには沢山の魔物達が集まっていた。

 気のせいだろうか。

 魔物達は警戒しているのか、男性に威嚇している。グルグルと唸る魔物達の前に立ち、ハンナは頭を下げた。

「お願いっ!この人をロートヴァルト家まで運ぶのを手伝って下さい。」

 魔物達は困惑した。唸り声はおさまったものの、みんなが二の足を踏んでいる。ハンナのお願いは叶えたいが、この男性にはどうも不快な感情があるらしい。そんな魔物達の先頭を切って名乗り出てくれたのは、先程ハンナを慰めてくれたうさぎのような魔物だった。

『ハンナハンナ、困ッテル?』

『困ッテル助ケル。』

 優しい魔物の言葉に、ハンナはぱっと表情を明るくした。

「ありがとう!」

 ハンナの笑顔は今日一番の笑顔だった。

 その笑顔を見た他の魔物達は渋々といった様子で男性へと近寄っていった。

「本当にありがとう!みんな大好き!」

 ハンナの笑顔に、魔物達も嬉しそうな鳴き声を出した。そして何匹かの魔物が男性を持ち上げた。うさぎのような魔物は、黒くて大きな卵を抱えている。

「みんな、大変だけど、お願いね。」

『楽勝楽勝。』

『嬉シイ。ハンナノ役にタッタ?』

「うん。すごく助かってる。」

 魔物達にとって卵と男性を運ぶのは容易いことの様だ。軽々と持ち上げて、ハンナの後ろについていくのだった。

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