第95話 デザートワーム

「ねぇお肉は? お肉食べちゃダメなの?」


「ダメですよ。体が疲れているってことは、内臓も疲れているんですから大人しくお粥を食べなさい」


「うぅ...」


「ほら、せめて玉子とじにしてあげますから。ね?」


 アリィがリオを優しく諭す。まるでお母さんのように。そんな光景を微笑ましそうにユウが眺めていた。


「リオ、我慢するんじゃな。それにこのお粥というのも案外イケるぞ?」


 そんなことを言ってるラキの傍らには、デッカい鳥の丸焼きがデンっと控えているから説得力はまるで無い。


「うぅ...同じ物を同じような量を食べてて、なんでリオだけ太ってラキは太らないのさ? 不公平だよ...」


「残念じゃったな。元々妾はどんだけ食っても太らん体質じゃ。それに移動の時、ドラゴン形態になっておるしな。カロリー消費はバッチシじゃ」


「じゃ、じゃあ今後はリオがフェンリルになってみんなを運ぶよ!」


「フム、それは構わんが、燃費の悪いお主では長距離の移動は無理なんじゃないか?」


「うぅ...そうだった...」


 乗り物担当の二人がそんな会話を繰り広げている間、ユウは買って来た魔物図鑑に夢中になっていた。


「ユウ、その本はなんですか?」


 そこへ興味を惹かれたのかアリィもやって来た。


「魔物図鑑だ。テキストの紹介文だけじゃなく図解まで載ってるから分かり易いと思って買って来たんだ」


「わぁっ! 確かにこれはいいですねぇ!」


 アリィも目を輝かせる。


 そうしてその日の夜は更けて行った。



◇◇◇



 次の日、荒れ地が揺れていた。


「な、なんだ!? 地震か!?」


 ユウが叫ぶ。さすがにバリヤでは地震は防げ無いらしく、部屋中の家具や生活用品が揺れている。食器が割れた音が響いた。


「みんな! 姿勢を低くしてテーブルの下に避難しろ!」


 地震の多い日本に住んでいただけあって、ユウの指示は手慣れている。アリィとリオは素直に従った。だがラキだけは一人平然としていて、


「落ち着け。これは地震ではない」


 ラキの言葉通り、地震と呼ぶには揺れ方がどこか変だった。そう、まるで何か大きな物がすぐ側を通ったかのような...


 揺れが収まった後、テーブルの下から這い出して来たユウが尋ねる。


「ラキ、あれが地震じゃないとしたら一体何が!?」


「デザートワームじゃ。それもあの揺れ方じゃとかなり大きく育ったヤツみたいじゃの」


 ラキはそう言って魔物図鑑を開く。


「これじゃ」 


 ラキが指差した図解には、巨大なミミズが鋭い歯の生えた口を大きく開いているという、なんともおぞましい姿が描かれていた。

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