第93話 躾る3

 野郎どもから兄貴と呼ばれた男は、筋骨隆々とした熊のような大男だった。


「てめぇらか? 子分どもが世話になったそうだなぁ? おい、こっちのお姉ちゃんでいいのか?」


 男が野郎どもに確認している。ラキの姿が聞いていたものと違うから戸惑っているのだろう。


「い、いや、違う! やい、てめぇら! あのガキはどうした!? ガキを出しやがれ!」


「ガキ? あぁ、貴様らが妹の言っておった連中か。妹が世話になったようじゃの」


「い、妹だと!? あ、あれはてめぇの妹か!?」

 

「あぁ、そうじゃ。妾の妹じゃ。妾に似て可愛い娘じゃろ?」


 どうやらラキは妹で押し通すつもりらしい。口調がそのままなのは変えるのが面倒になったからだろうか。


「ま、まぁ、この際姉の方でもいい! この間は良くもやってくれたな! たっぷりお返しをしてやらぁ! へへへっ! 覚悟しろよ! 兄貴はBランクの冒険者なんだからな!」


 どうやらお礼参りに来たらしい。それも用心棒を連れて。


「まぁそういうことだ。お姉ちゃんに恨みはねぇが、この稼業は舐められたままじゃいられねぇんでな。へへへっ、これも躾だ。悪く思うなよ」


 Bランク冒険者だと言う男が下卑た笑みを浮かべる。野郎どもが釣られて嗤う。


「躾か。確かに躾は必要じゃな。妾達もつい最近思い知ったばかりじゃ」


 リオのことでも思い出したのか、ラキが苦笑を浮かべた。


「分かってるじゃねぇか。じゃあお姉ちゃん、一緒に来て貰おうか」


 そう言って野郎どもがラキを裏に連れて行こうとする。


「ラキ...大丈夫か!?」


 ユウが心配そうな顔をする。それはラキに対してじゃなく、主に野郎どもに対してだが...


「心配要らん。すぐに終わるから待っておれ」


 ラキはとても良い笑顔を浮かべてそう言った。



~ 5分後 ~



「待たせたの」


 何事もなかったかのようにラキが戻って来た。


「早かったな...」


「まぁな。この姿だと子供の時よりもドラゴンの力が強くなるからな」


 ラキは手に付いた血を拭きながらそう言った。


「あぁ、なるほど...そういうことか...」


 ユウは納得したような納得しないような微妙な顔で頷いた。


「もっとも、子供の姿であっても軽い物じゃったろうがな」


 ラキはなんでもないような感じでそう言った。


「Bランクの冒険者ってのが居たようだが...」


 ユウが一応確認する。


「あれでBランクなら妾はとっくにSランクじゃな」


 そう言ってラキは鼻で嗤った。


 この日以降、ユウ達...というかラキに絡んで来る冒険者は一人も居なくなったとさ。


 

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