第9話 ドラゴン襲来

 何はともあれ腹が減ったので朝食を取ることにした。


 スクランブルエッグにカリカリベーコン、トーストとコーヒーという定番の朝食メニューを平らげた二人は、今後どうするかの話し合いをしていた。


「フゥッ、ご馳走様でした。まさか異世界でこんな美味しい朝食を食えるとは思わなかったよ」


「本当に」


 二人揃って苦笑する。


「さて、まずはこの世界のことを知る上で、人里に降りてみようと思う」


「そうですね。ただ...」


 アリィが言い淀む。


「そうなんだよな ...山の中、どっちに進めばいいのか見当がつかない。コンパスがあっても無意味だろうし」


 日本っていうか地球とは磁場が違うだろうし、そもそも方角が分かっても、どっちに進めばいいのかも分からない。


「えっ? コンパスってあの円を描く?」


 アリィがボケたことを言い出した。  


「いやそっちじゃなくて方位磁石の方」


「あぅ、すいません...」


 アリィが羞恥で赤くなった。まぁ学生ならそっちを想像しちゃうだろう。


「ところでアリィ、これから異世界を旅するにあたり、丸腰ってのは怖いと思うんだ。剣や槍、弓矢なんかをイメージ出来るかな? 若しくは拳銃とか」


「やってみます」


 結論から言うと全滅だった。辛うじてイメージ出来たのは、包丁や果物ナイフなどの金物類だけだった。武器と言えなくもないが心許なさ過ぎる。包丁一本サラシに巻く訳にもいかない。


「う~ん、やっぱり実際に手にした物じゃないと厳しいみたいだな」


「すいません...」


「いやいや、謝るとこじゃないよ。アリィのチートのお陰でこうして快適にいられるんだから。あ、そうだ。金槌はどうかな?」


「イケそうな気がします」


 今度は成功した。


「うん、これは武器になりそうだな」


「良かったです...」


 アリィがホッと一息ついた。


「じゃあ、行こうか」


「はい」



◇◇◇



 家の外に出た時、ユウは一つ気になっていたことをアリィに尋ねてみた。


「なあ、アリィ。一度転送出来た物って何度でも転送出来るのかな?」


「あ、そうですね。一度消して試してみます」


 そう言ってアリィが目を閉じる。すると今まであった家が忽然と姿を消す。またイメージしてみる。再び現れた。


「凄いな...アリィのチート最強なんじゃ...」


「そ、そんなこと~」


 照れるアリィ。と、その時だった。地面が揺れ出した。


「な、なんだ!? 地震!?」


「い、いえ、何かが近付いて来るような...」


 その通りだった。


「グオォォォォッーーーーー!!!!!」


 洞窟中に響き渡る怒号と共に現れたのは、


「ど、ドラゴン!?」


 銀色に輝く巨大なドラゴンだった。


「アリィ! 俺の後ろにっ!」


 咄嗟にアリィを庇ってユウが前に出た瞬間だった。


「うわぁっ!!」


 視界が真っ白に染まった。ドラゴンがブレスを吐いたのだ。強烈なブレス攻撃に耐えられた者はかつて一人も居ない。ドラゴンは勝利を確信したのだが、


「グオッ?」「ん?」


 ドラゴンとユウの声が被った。両者共にキョトンとしてる。先に気を取り直したのはドラゴンだった。


「グオッ! グオッ!」


 短い前足で殴る。後ろ足で蹴り上げる。それでもユウの張ったバリヤはビクともしない。


「グオオッッッ!」


 今度は鋭い牙で噛みついてきた。重さに耐えられなくなったのか、バリヤが内側に凹んできた。ドラゴンの鋭い牙が眼前に迫ってくる。


「ヒィッ!」


 アリィが悲鳴を上げた。ユウは焦る。その時、さっきアリィに出して貰った金槌のことを思い出した。ドラゴンの牙目掛けておもいっきり振り下ろす。


「ウリャァッ!」


 パキーン


 乾いた音が響き、ドラゴンの牙が一本折れた。


「グオォォッッッ!」


 一際高く鳴いたドラゴンは、逃げるように去って行った。


「ハァハァ、アリィ、無事か!?」


「こ、腰が抜けた...」


 二人はクタクタになって地面に座り込んだ。

 

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